この地で養鶏を始めたのは2018年、今から7年前だ。それまでエリックさんが何をしていたか尋ねると、驚きの答えが返ってきた。「化粧品会社で営業部長をしていたんだ。スペインのバルセロナで働いていた」。全く違う仕事からの転身。きっかけは、2008年に起きた世界的な金融危機だった。エリックさんとマルタさんは、当時働いていたスペインで、ほぼ同じ時期に会社を解雇されたのだという。
突然仕事を失った2人は「じっとしていても仕方がない」と、2012年にエリックさんの母国・フランスへ戻ることを決意した。フランスに戻ったものの、エリックさんは思うような仕事を見つけられず、2年ほど失業状態が続いた。
ニースの実家に同居させてもらっている間、週末だけエリックさんの祖父が建てた別荘(今の自宅)がある村に通い、家を改装。そして、この辺りに鶏を育てる農家がほとんどいなかったこと、そしてマルタさんのコロンビアの実家が養鶏をしていたという経験もあり、養鶏業を始めることを決めた。
この養鶏場がある土地は、エリックさんのひいおじいさんの兄弟の土地で、約60年間荒れ放題になっていた場所だった。エリックさんは養鶏を始めるため、2年近く1人でこの山に住み、荒れた土地の整地や石垣積みを行った。鶏舎もプレハブの部材を山の上まで運び、自力で4棟すべてを建てた。
開墾から数えて丸4年、ようやく鶏の飼育を始めることができたという。マルタさんは、化粧品の営業マンだった夫が、こんなにも体力を要する大仕事をやり遂げたことに「本当に尊敬してる」と語る。エリックさんも「人生の大きな転機だったけど、文句も言わずに協力してくれて感謝してる。おかげで今はこうして幸せに暮らせてる」と、妻への感謝を述べた。
経営は軌道に乗り、収入も安定してきたが、鶏の世話に休みはない。夫婦はコロンビアで結婚式を挙げて以来、「2年どこにも行っていない」という。
しかし、夫婦には今後の夢がある。「1年の半分をフランスに住んで、半分はコロンビアに住みたい。8年後ぐらいかな」とエリックさん。エリックさんが62歳、マルタさんが57歳になる頃に仕事から離れ、旅行も楽しみながら、フランスとコロンビアを穏やかに行き来する2拠点生活を送りたいと語った。
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