■医師「すべてがダメになるわけではない」 認知症疑い“13のチェックリスト”
認知症の患者と40年間向き合いながら、研究にも携わってきた「メモリークリニックお茶の水」朝田隆院長は、弥生さんについて「比較的初期の症状だろう」と考える。「“若年性”や、遅くなっての“晩発性”には関係ない。聞いたことや食べたものの記憶は、まず脳の海馬(かいば)に蓄えられるが、その具合が悪くなり、『さっきのこと』が覚えられない。逆に、昔のことは脳の奥にある、記憶の引き出しにしっかり入っているため、ダメージを受けていない」。
認知症をめぐり、現時点でわかっていることは、「現在の医療では完治しない」といった点だ。高齢者の認知症患者数は約471万人(2025年推計)で、若年性認知症患者数は約3万5700人(2020年調査)。対症療法薬と根本治療薬があるが、根本治療と言っても進行を遅らせる薬しかない。
朝田氏は日常での行為について、「何気なくやってもダメで、『何気なくお風呂に時計を置く』『何気なく野菜を冷蔵庫に入れる』では、すぐ忘れてしまう。しかし、ビクッとすることと同時に何かをやると覚える。そのあたりの“気持ちよさ”が大事だ」と語る。
サポートを続ける光紀さんは「歌は上手になってきている。忘れることや、記憶できないことは多いが、歌は確実に上達した。トレーニングによって、音域が広がったり、声が太くなったりしている」と、その効果を明かす。弥生さんも「低い音域が以前より出るようになった。筋肉のコントロールが、前よりうまくなったのだろう。そう思うと、人の体は不思議だ」と話した。
朝田氏は「人によって経過は違い、生活や付き合い方の差も大きい。近ごろよく『認知症との共生』と言われるが、そのモデルがなくて困っている」といった課題を挙げる。「認知症になったら、すべてがダメになるわけではない。もともとギターを弾いたり、自転車に乗ったり、水泳したりした人は、どれだけ認知が進んでもできる。要するにキャパが残っている。記憶はダメでも、『力を入れて声を出す』といった能力は、鍛錬次第で伸びる余地がある」。
13項目からなる認知症疑いのチェックリストがある。朝田氏は「認知症で一番古い専門学会“日本老年精神医学会”のリストだ。『いくつ当てはまれば認知症』というものではなく、本人や介護者、医師の回答によって、採点のアルゴリズムが組まれる」と説明する。「ここに書かれているのは、アルツハイマー型やレビー小体型、前頭側頭型のような、よくある認知症の代表的な初期症状だ。記憶ではなく行動のため、周囲が気付くのにはいい指標になる」と推奨した。(『ABEMA Prime』より)
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