■素人が3カ月で大作を完成
AIを活用して映画監督になった遠藤氏。「マチルダ」は本人とサポートしてくれた男性と2人で手掛けた。「この映画には誰一人、プロは入っていない。私も映像は全く初めてで、もう1人はサラリーマン。普通に1日10時間、会社で勤務した後に作っていた」。加速度的に進化するAIの登場によって、絶好の機会だと挑戦を決意。「(ベースとなる)小説も全く書いたことがなくて、たぶん(学生時代の)反省文以来の長文。伝えたいメッセージは20年ぐらい抱えていたけれど、漫画家でも小説家でもタレントでもない、映画業界にもいない。発信する術を持っていない中、AIが庶民レベルまで下りてきたところで、やっと映像にして表現ができると思った。これを逃したらチャンスはないと思って、命がけでやった」。
制作費は「中古のフェラーリ1台分。『0』が2つ(万円)ではないくらい」と語るが、
作品の世界観と内容を考えれば、破格に安い。「映画で美術セットを作ろうと思ったら2億円では絶対無理だし『美術にお金がかかる映画だね』と言われるので、10億円から20億円ぐらいあれば、思った通りの美術で描けるかなというくらい」と、数十億円はかかるレベルのものをパソコンだけで作り上げてしまった。
もちろんAIならではの苦労もある。70分=4200秒の映画だが、最新のAIモデルを使ったとしても、一度に生成できる動画は最長で10秒。その中の5秒が使えるとした場合、840コマの素材が必要となる。指示通りの動画が生まれないケースも多々あったため「1000、2000というコマの動画を作って、いいところだけ貼り付けた」。
さらにAIは予想外の動きをいくつもする。NG動画には、バイクのような乗り物が逆走したり、タイヤの部分から火を噴いてしまうこともあった。また人間のキャラクターの表情も、本物の人間にはほど遠いものがあると遠藤氏は語る。「大変だったのは『人』。かっこよくはなるけれど、泣いてくれないし、怒ってくれない。『モデル』としてはいいけれど、演技をさせると『大根役者』にしかならない。全然思った通りにならないので、実写で撮りたいと思ったこともあった」。
■AIで作ったからこそわかる人間の価値
