■1件のクレームで作品撤去はやりすぎ?

市川市
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 市川市が1件のクレームにより、展示物を撤去するという対応は、周囲からどう見えたのか。キャンセルカルチャーに関するシンポジウムを企画したエンターテインメント表現の自由の会・坂井崇俊氏は「ほとんどの人から”やりすぎだ”と思われると思う」とし、「行政に頑張ってほしかった。特に、人の不快はやっぱり主観。役所として全ての人の不快に応えることはできない。ならば、どこかで主体的な判断が求められたのではないか」と述べる。

 過去、キャンセル事案についての記事を執筆した経験があるコラムニスト・河崎環氏は、クレームに対応しすぎてきたこともあるのではと疑問を投げかけた。「キャンセルカルチャーを仕掛けた側の動きをまとめて記事にすることが多かったが、その時に私は『なぜ取り下げるのか』と思った。私たちがこの表現を選んだのには理由があると言って、認めるものがあれば修正版を出せばいいのに、取り下げてしまうことに呆気なさも感じた」と述べる。

 さらに「消費者目線で、匿名であっても意見が出て、それが可視化されることはいいと思う。ただ、本当にキャンセルされて視界から消えた時、火をつけた人は満足しているのか。『あ、消えたわ』くらいにしか思っていないのでは。消えたら消えたで、また次に何か気に入らないものを同じように叩く人に対して、そんなに真摯に対応すべきなのか」とも述べた。

 これに坂井氏は「見ていると『キャンセルさせてやったぜ』というのはあるようだ。自己実現というか、自分にとっての理想の社会、理想の世界像に一歩近づけてうれしいのだと思う」と、キャンセルさせる側の心理を想像する。ただし、改めて市川市の対応については「即キャンセルは、どう考えてもやりすぎ。SNS時代なので、すぐに判断をしなければいけないというのもあるが、今議論になっているのは表現の自由、ジェンダー、公共性の3つ。このバランスをうまく取りつつ、表現が萎縮してしまうようなことは避けたいし、一方的なキャンセルから守っていきたい」と語った。

■炎上に巻き込まれた当事者の思い
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