■親密度をアピールした日米首脳会談
日米間の政治や安全保障に詳しい明海大学の小谷哲男教授は、日米首脳会談を「両者の関係が良好だとアピールできた意味で良かった」と評価する。「2016年にトランプ氏が大統領選に勝ったとき、安倍晋三元総理は真っ先に駆けつけた。当時は『まだ大統領でもないのに、なぜ行くんだ』と批判されたが、結局はそこで生まれた関係性が、日米関係に役立った。いまや世界の首相が、あれを真似している。高市氏もトランプ氏を持ち上げて、日米関係がよくなればいい」。
また、「今回トランプ氏を大歓迎したのは、日本を取り巻く安全保障環境が厳しいからだ。アメリカなしに、日本は安全を守れない。いくら媚びを売っても、いざという時に助けてもらう関係を築くことは、日本にとっても大きなプラスだ」とした。
日米安全保障の専門家である、アメリカ・ハドソン研究所の上席研究員・村野将氏も、「滑り出しとしては非常に良かった。首脳会談は基本的に失敗しないはずだが、トランプ氏との会談に失敗した人は多々いる。『やりすぎ』と言われるくらいがちょうど良いのでは」と語る。「アメリカの継続的なコミットメントと言うと、言い過ぎかもしれないが、何も失わなかったこと自体が大きい」。
アメリカは各国に防衛費の引き上げを求めている。これについては「日本は前年度まで、GDP(国内総生産)比で1.8%程度だった。しかし実際に持っている戦力は、大型水上艦がドイツの5倍、潜水艦規模は4倍、戦闘機は60%以上、パトリオット迎撃ミサイルのランチャーは70%以上も多く持っている。GDP比の防衛費の割合は、客観的に“本気度”を示す指標ではあるが、同じ割合や金額でも、防衛力や戦闘力の実力に差が出る」と説明する。
加えて、「アメリカ側が空気を読んだのではないか」と推察する。「これまでトランプ政権は、大統領や長官レベルで、具体的な数字を示した増額要求をしてこなかった。国防次官などの事務方では、水面下で『GDP比3.5%』といった具体的な数字が出ているだろうが、少なくとも表向きには言われていない」。
そして、「日本側は、具体的な数字が公になると、財源の問題や『アメリカの圧力に屈するのか』といった論争が起きる。そのため、『絶対にやるから、表では言わないでくれ』と、アメリカ側を説得したのではないか」と予想した。
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、「日本の防衛費は約8兆円で、NATO(北大西洋条約機構)全体が約60兆円。すでにヨーロッパは巨額を投じており、NATOの軍事費がデカいなら、さほど上げなくても良いのではないか。むしろ対中国は日本の8兆円では足りない気がするが、アメリカや軍事業界としては大丈夫なのか」と疑問を持つ。
これに村野氏は「問題があるため、アメリカが日本に求めている」と返す。「オバマ政権の後期から、長期間にわたる戦略的競争が重要と言われ、ここ数年で『ロシアより優先すべきは中国だ』という考えが、安全保障コミュニティーのコンセンサスになった。なにより『ロシアより中国が危険だ』と、アメリカに言ったのは日本自身だ」。
こうした背景もあり、「NATOがGDP比5%水準まで引き上げると言っているのに、アジアの同盟国である日本が2%程度で満足していると、『より危険な脅威に直面しているのに、真剣さが足りない』と言われるのも仕方ない」とした。
小谷氏も「対中国で考えると、防衛費がいくらあっても足りない。しかし、増額すると税金も高くなり、社会保障も削らないといけない。『国の安全を守るために、日本人の生活水準を下げるのはいいことなのか』という、バランスの問題になる。日本も防衛努力が必要だが、中国の抑止について日米間で常に話し合い、オーストラリアや韓国といった同盟国・友好国を巻き込んで、抑止を強化していくべきだ」とした。
■中国をどうやって抑止する?
