■なぜ日本では防衛産業が進まない?

防衛装備品の輸出
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 中谷氏は「日本の防衛産業は立ち遅れている。国際情勢や技術進歩を見ると、日本も行動しないと、結果的に国が守れない危険性が増すだろう」と指摘する。

 国外展開について、現状では「がんじがらめで、できないことが多い。いままで成功したのは、フィリピンにレーダーを売った1件だけだ。私の防衛大臣時代に、ようやくオーストラリアに対して、護衛艦の共同生産を呼びかけ、11隻作る計画が決まった。イギリスとイタリアとは、次世代戦闘機を共同開発しようとするGCAP(グローバル戦闘航空プログラム)もある」と説明した。

 防衛産業をめぐる実情として、「ウクライナ戦争を見てもわかるように、ドローンが主役で、有人機は時代遅れだ。しかし日本にあるドローンは、ほとんどが中国製で、この装備では戦えない。情報漏えいもあり、独自で作らないと国は守れない」と話す。

 そして、「性能のいいものはアメリカから買っている。国産は限られていて、作っても売れない。民間企業も開発に参加してくれず、あらゆる制約があるが、それでは立ち遅れてしまうため、積極的に国を挙げて進めようと決めた」とした。

 軍事ジャーナリストの清谷信一氏は、「戦後は軍事について議論すること自体が禁忌とされてきた。そのため、防衛省や自衛隊、防衛産業の人々は、当事者能力が相当落ちている。取材していると、海外の軍人やメーカーとは拙い英語でも通じるが、日本では通じない。“軍隊の常識”が欠如している人が、装備開発を主導できるのか」と懸念を示す。

 加えて、「日本の装備・兵器はトップクラスのような認識があるが、実は世界で二流、三流のものばかりだ。値段や維持費は高く、性能は低い。それを『どうボトムアップするか』の議論になればいいが、『質が高いからすぐ売れる』という認識の人が多いため、議論にミスマッチが起きる」と語った。

 中谷氏は、研究機関の課題として「一番悪いのは日本学術会議だ。『日本で軍事研究をしてはいけない』と決めて、各大学にお触れを出して、チェックしている。そのため、いくら頼んでも研究・開発できない。一方で、外国の軍事研究は頼まれているといい、非常に矛盾している」と明かす。また民間でも「一流企業に多いが、防衛産業に手を出すと、レッテルを貼られる。株主総会でも『もうけが少ないから別のことをやれ』と言われる」という。

 政治学者の岩田温氏も、「日本学術会議の問題は、もっと真剣に考えた方がいい」と考えている。「高度な知識を持った専門家がいなければ、技術は生まれない。普通の国は軍事研究に率先して予算を付けるが、日本では『日本人の技術が、中国に入って軍事転用されている』などの事例が多く、自国の強化に使える技術が、自国を脅かす技術に変化してしまっている」。

 組織の成り立ちを振り返り、「先の大戦に敗れたのは、日本が一方的に悪いため、戦争や軍事については一切考えてはならない」という価値観があったとしつつ、「いまや多くの人は、『国を守る』ことに反対しない。しかし、『国を守ること自体が、侵略につながりかねない』と考える人は、今なお多い。そこに国民の税金を投じていることに、大いに不満を覚える」と疑問視した。

■日本の防衛産業が世界から遅れた数々の理由
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