いったいなぜ動物園で麻酔吹き矢なのか。辻本園長は「元々、こちらの獣医師として働いていた。動物園の獣医師にとって吹き矢で動物を麻酔するというのは通常業務。例えば、ライオンやピューマ、クマなど、直接、手で注射を打てない動物がたくさんいる。そういう動物には吹き矢を使って麻酔薬を投与する」と説明。これは獣医師でないとできないことだとして「麻酔薬を使うので、そういう意味で獣医師が行う」と明かした。

 クマの捕獲に吹き矢が使用されるのは、狭い室内などで銃を使うと跳弾などの危険も想定されるためだ。さっそく実際に使用している麻酔吹き矢を見せてもらうと、辻本園長は「これが薬を入れて飛ばす“投薬器”。注射器と同じ。針がついている注射器。これを筒の中に入れ、吹いて飛ばす。針が特殊で、真ん中に穴が空いている。この穴をゴムでフタをすると密室になる。(注射器の上部には)2.5cc入り、薬を入れる。こちら(注射器の下部)には空気を入れる。そうすると空気圧で押される」と説明した。

 使われる麻酔は、人間に使用するものとは異なるという。針の穴にフタがしてあるため、このままでは麻酔薬が出ない状態。段ボールを的にして、実際に吹いてもらった。「動物の体に当たるとゴムがずれ、針の穴が開放されて、(空気圧で)ここにある薬が筋肉の中に入っていく。筋肉だとそこに毛細血管がいっぱいあって、そこから薬を吸収。最終的に頭に到達しないとダメ」(辻本園長、以下同)

 辻本園長によると、一般的に狙う場所は、お尻や太ももなど、大きな筋肉がある場所。多少ずれても、的が大きいためしっかりと筋肉に当たるという。「クマの場合、時期によって数cmの皮下脂肪がお尻とかにつく。脂肪があると筋肉まで到達しないので、脂肪のない場所、例えば胸筋とか上腕の筋肉、的は小さいがそういうところを狙って撃つ。クマは吹き矢を撃とうとすると、こっちを向くので。瞬間的にチャンスを狙って、胸とか腕に撃つ」。

麻酔用吹き矢の射程は3m
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