そんな状況を見極めたのか、国民民主党に急接近した。年収の壁で「一緒に関所を超えましょう」と呼びかけてきた玉木代表にほぼ満額回答した形を見せた。そんな中、玉木代表は自身のYouTubeチャンネルで「ついに三党合意コンプリート!」とはしゃいでみせた。

 確かに、額面では178万円だ。石破政権ではいわゆる「103万円の壁」を見直し、控除の拡充によって条件付きで最大160万円相当まで非課税となる仕組みを導入。しかし同時に所得制限を5段階に区切ったことで、最大の恩恵が受けられるのは年収200万円以下の層に限られ、対象はごく一部にとどまるとされた。それが今回の合意で665万円以下までなら満額178万円分を控除されるため、政府は給与所得者の8割をカバーすると説明する。

 財務省内には「(自民は)ベタ折れだ。他にもガソリン暫定税率の廃止、高等教育無償化、公立小学校の給食費無償化など、さすがにこれだけ大盤振る舞いばかり続けていたら、いつマーケットから財政に警告が出されても不思議ではない」という意見がある。ただ、財源は6500億円と「大盤振る舞い」にしてはそれほど巨額でもない。当初は178万円にまで引き上げたら、財源は7兆円とも8兆円ともいう試算があったほどだ。7〜8兆円ならば国税収の10分の1に迫る超大型減税だが、結果は6500億円だった。

 これは、同じ178万円でも裏があった。所得税を中心に控除を拡充する一方で、住民税の制度は大きく見直さないことで、名目上は178万円に相当する水準となったが、税収の影響は一定程度に抑えられた。

 財務省幹部は「まさに肉を切らせて骨を断つって感じだな。6500億円なら想定内だ」とつぶやく。今回の年収の壁の合意は2年間の時限措置であるため、減税には恒久財源も必要ではない。むしろ玉木代表が「政権との協力は新たなステージに入る」と言って、来年度予算への賛成もほぼ確約したことが、参院で6議席足りない少数与党の高市総理にとっては、とてつもなく大きい。

 野党分断にも成功し、来年の予算案への賛成まで国民民主と握った高市総理が次に見据えるのは、来年春以降に噂される衆院解散だろう。果たして、それまで今の支持率は保てるのか。

安倍晋三元総理の教訓
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