この施設は、牛の排泄物を発酵させて堆肥を作るための「堆肥舎」だった。全長55mの施設の中には巨大な攪拌(かくはん)機があり、60度近い発酵熱の蒸気が上がる。
建設の経緯を聞くと、約30年前、国の補助事業を利用し、近隣の農家3軒で共同出資して建てたものだという。その後、他の2軒は廃業したため、現在は男性の一家だけが残った。男性は「(3軒での)負担金は2000万円。(総工費は)1億円近くかかってる」と明かす。
ここで作られた堆肥は、水分調整や発酵に約1年という長い時間をかけて完成する。大口農家へはトラックで納品し、残りは袋に詰めて小売りに。驚くのは価格設定で、20リットル入り1袋の販売価格はなんと「300円」。価格を変えずに数十年、地元の人々に提供し続けているという。
4人きょうだいの長男として生まれた男性。高校2年生の時、農業科の授業の一環で「自分のお小遣い」を使って子牛2頭を購入(当時1頭5000円)し、飼育を始めると、高校卒業とともに父親の農家を継承した。
男性の父はシベリア抑留の経験者で、過酷な環境で体が弱り、帰国後も大手術を受けるという壮絶な経験をしていた。男性は当時を振り返り、「早く楽にしてやりたいな、心配かけないようにしてやりたいなと思った。それで『酪農のほうは俺が中心でやるからいいよ』って」と、涙ながらに語る。
「私は農家に行きません」と結婚を断った妻
