■母親に手をあげた当事者「堤防が決壊するような感覚で…」

松浦晋也氏
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 科学ジャーナリストの松浦晋也氏は、10年前に介護していた母親に手をあげた経験を持つ。当時について、「ちょっとしたことで苛立つことが延々と続き、自分の中にストレスが蓄積されていった。その勢力が自分の内側で行き先を求め、非常に直接的な暴力の衝動になっていく。理性でいけないと分かっていても、一方で『やったら楽になるぞ』という思いが湧き上がってくる。当時の自分はおかしかったと言えるが、それは人間にとって割と自然な反応な気がしている」と振り返る。

 手をあげてしまった状況については、「堤防が決壊するような感覚で、非常にナチュラルに手が出てしまった。認知症で要介護3だった母が、冷蔵庫から物を出して散らかしたり、冷凍餃子を水に漬けたりといった不可解な行動を繰り返したのがきっかけだ。我に返ったのは母の口の中から血が出ているのを見た時だが、母は数分後にはなぜ血が出ているのか分からなくなっていた。記憶が続かないことで歯止めが1つなくなったように感じ、これ以上は止まらなくなるのではないかと怖かった。その後、妹に相談したことで、さらなる暴力を防げたのかもしれない」と明かした。

 第三者の手を借りようとは思わなかったのか。「一番は母が自宅で暮らしたいという強い意志を持っていたため、できる限りのことはやってやろうとしていた。しかし、それは自分にストレスを溜めることでもあった。ギリギリのところが、暴力という形で決壊した。その時点でケアマネジャーから『これはもう限界ですから、施設に入れることを考えましょう』と判断が出て、動き出した」と答えた。

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