【写真・画像】ウサギが原告? 川に「法的人格」認める? 「地球の声」を届ける法廷闘争の最前線に迫る 1枚目
【映像】原告になった「アマミノクロウサギ」
この記事の写真をみる(2枚)

 地球温暖化や生物多様性の損失といった深刻な環境問題に対し、法律を武器に挑む「環境法廷」の動きが世界で広がっている。朝日新聞の香取啓介記者(編集委員)と取材班は、海外取材で目撃した法廷闘争の最前線について解説した。

【映像】原告になった「アマミノクロウサギ」

 「去年の夏も非常に暑かったが、この悪化する状況を法律を使ってどう変えていくか。我々取材班は、法律を駆使して現状をこじ開けようとする取り組みを『環境法廷』と名付けた」と香取記者は語る。現在の法体系は地球規模の環境問題に追いついていないのが実情だという。「法律は本来、弱者の味方。力を持たない人々が創造力と法律を使って問題を訴えていく取り組みに興味を持った」と取材の動機を明かした。

 香取記者は注目すべき事例として「南米ペルーで2年前に川に法律上人間と同じ権利を持つ『法的人格』が認められた」という画期的な判決を挙げた。全長1500キロに及ぶペルーのマラニョン川では、石油会社による度重なる石油流出により、水質汚染や魚の大量死、周辺住民の健康被害が深刻化していた。これに対し、現地の先住民の女性たちが「川には汚染から自由である権利がある」として国や石油会社を提訴。2024年、裁判所はマラニョン川に法的人格を認め、国に保護計画の更新などを命じた。この異例の判決について、香取記者は「国内法だけでなく、国際条約や先住民の文化的価値を根拠としたものだ。自然の権利が認められたことで、彼らが環境被害に立ち向かう手立てができた」と、その意義を強調した。

 この動きは世界的な広がりを見せている。香取記者は、「2008年に世界で初めて憲法で自然の権利を明記した南米エクアドルをはじめ、ニュージーランドでは川に法的人格を与える法律ができ、スペインでも湖に権利を認めた特別法がある」と、各国の事例を紹介した。

 次は、「環境法廷」の中でも気候変動に関する訴訟についてだ。南太平洋の島国バヌアツでの取材を通じ、香取記者はCO2を多く排出する大国と途上国の間の深刻な問題に直面。バヌアツ
は温室効果ガスの排出量が極めて少ないにもかかわらず、海面上昇やサイクロンによる高波で集落ごと移転を余儀なくされている住民の姿を目にした。「自分たちでやれるのは砂を積んで土地をかさ上げすることぐらいしかない」と語る現地の漁師の姿に、世界第5位の排出国から来た日本人として「非常に申し訳なさがあった」と胸中を語った。とはいえ、バヌアツの人々も無策ではない。現状を打破しようと動いた若者たちが訴え、国際司法裁判所(ICJ)が「各国政府に気候変動対策の義務がある」とする勧告的意見を出すに至ったのだ。これも画期的な判決だ。

 一方で、日本における「環境法廷」の課題も浮き彫りになった。日本では各地で過去にアマミノクロウサギやホンドタヌキ、ホッキョクグマなどを原告とした訴訟が起こされてきたが、いずれも認められていない。動物を原告にした訴訟に関わった籠橋隆明弁護士からは「日本の自然保護法制が弱すぎる。経済優先で、(訴訟への)参加の手続きも不十分だ。住民参加の手続き、あるいはNPO・研究者の参加の手続きがないに等しい」と厳しい指摘が上がっている。籠橋弁護士は「動物を原告にすることは、社会に問題を知らせる戦略的な側面もある」という。
 

ト「世界的な脱炭素の流れは以前より弱まっているが確実に続いている」
この記事の写真をみる(2枚)