AI覇権争い「米国は作り手 中国は使い手」米中首脳会談で垣間見えた勝負の行方

AI覇権争い「米国は作り手 中国は使い手」米中首脳会談で垣間見えた勝負の行方
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トランプ大統領が9年ぶりに中国を訪問し、習近平国家主席とトップ会談した。米国へ戻る機中、記者から「AIについて、NVIDIAの半導体H200の話も出たのか」と問われ、こう答えた。

「中国はそれを必要としていて話題になったが、買わずに自国開発を試みたいそうだ」

AI開発で中国の勢いを止めようと、米国は最先端半導体=ハイエンドチップの輸出規制を行ってきたが、去年12月には(最先端ではないが)高性能チップの輸出を条件付きで認めた。

今回の首脳会談にはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOも急遽同行し、その売り込みが進むとみられた。しかしロイター通信の独自報道によると、米商務省は中国企業およそ10社への販売を正式に許可したにもかかわらず、実際の納品はゼロだという。

中国が強気に出る背景を調べると、輸出規制で「AIの作り手」として米国がチップ開発をリードする一方、中国は「AIの使い手」として飛躍的な進化を遂げていることが分かった。どんなにチップの性能が上がっても、「AIを実社会で使いこなす」ことができなければ、経済的な果実は少ない。

AI覇権争いで、米中のどちらが勝利するのか。現状と今後について、米中の技術者らに話を聞いた。
(ロサンゼルス支局 力石大輔)

米圧力もデカップリング完遂せず

北京・天壇公園 5月14日
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「100年に一度のパラダイムシフト」と呼ばれるAIは、少しずつ私たちの生活に根付き始めている。従来の検索ではなく、AI Modeで調べ事をしたり、仕事の書類作成に活用したりする人も多いだろう。

AIに必要不可欠なのが、ハイエンドチップだ。演算能力の高い「馬力」があるもので、DNAより小さいレベルで設計するため、製造には高度な技術が求められる。

NVIDIAのチップ
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米国はバイデン政権下の2022年から中国の進化を止めるべく、具体的な対抗策を取ってきた。

  2022年08月:CHIPS法が成立し、米国内の半導体生産を強化。中国への投資制限
  2022年10月:NVIDIAのハイエンドチップの中国輸出を事実上禁止
  2023年10月:中国締め出しを強化。NVIDIAの中国専用チップも輸出禁止対象

ただトランプ政権へ移行し、米国は対抗策をシフトチェンジしつつある。中国への警戒は続けつつも「バイデン政権下の規制は米国の技術革新を阻害し、同盟国との関係を悪化させる」として、個別審査の上、限定的なチップ輸出を認める姿勢をみせている。

米中間には他にも懸案が多く、方針転換の背景は様々考えられるが、そのひとつに「AI覇権争いで、中国を完全にデカップリング(切り離し)できなかった」という事情があるのは間違いない。

深センで覗く中国の自信 自国チップへ期待の声も

深セン国際AI展示会 中国・広東省 5月15日
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ANN取材班は、2万人以上の開発者が集まる「深セン国際AI博覧会」に入った。専門家によると、チップの能力は米国製が圧倒していて、中国製は6~7年は遅れているという。

ただこの数年で、その差は確実に縮まってきていて、米国が制限付き輸出を認めるNVIDIA製チップのレベルであれば、中国でも似たようなものが作れるようになったという。

深セン国際AI展示会 中国企業の人型ロボット 中国・広東省 5月15日
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実際にサーバー設計会社へ話を聞くと、「いまは、NVIDIA製だけでなく自国製チップも取り入れている」と答えた。またNVIDIAを扱う販売代理店でさえ、将来的な鞍替えも示唆した。

「中国製チップの開発スピードが速く、しばらくすると米国を追い抜く可能性もある。その際は、取り扱うチップを考え直すだろう」

中国企業の人型ロボット 深セン国際AI展示会 中国・広東省 5月15日 
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もはや中国の代名詞にもなった、人型ロボットの展示も多い博覧会。様々声を掛けると、どうも中国製ではなく、米国が規制対象外とするNVIDIA製のハイエンドではないチップを使い、開発を進めている企業が多いようだ。

なぜ古いチップのままで、新製品を作り続けられるのか。ここに、中国AIの独自進化があった。

輸出規制の効果薄?中国がモデルで肉薄

ハイエンドチップを手に入れられなくなった中国は、既存のチップをいかに「効率」よく使うかという観点で、実際に使えるモデルの開発に活路を見出し始めた。チップそのものの演算能力を高めるのではなく、効率的に働く「AIの脳=モデル」にフォーカスしたのだ。

最新チップが高性能キッチンだとすると、AIモデルはシェフの知識を集めたレシピ集だ。どちらも美味しい料理には欠かせない。

米スタンフォード大学の「AIインデックスレポート2026」は、「米中間でAIモデル性能を比較すると、事実上その差はないに等しい」と結論付けている。

AI最高モデルの性能比較で、2023年には中国は米国から12%近く後れをとっていたが、去年には差がほとんどない。米国が「高性能チップの馬力で力押しする」のに対し、中国は「既存のチップを極限まで効率的に使い倒そう」としているのだ。

『Epoch AI』より作成
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社会実装AI+ 中国が圧勝

中国はモデル性能の向上に合わせ、実際の社会でAIを大規模に活用し始めた。これは、AI+(プラス)とも呼ばれ、「AIが第四次産業革命を起こす」といわれているのは、まさにこの部分だ。いくらチップの演算能力が上がっても、ChatGPTの回答が面白くなっても、それだけで私たちの仕事や暮らしは変わらない。

AI覇権争い「米国は作り手 中国は使い手」米中首脳会談で垣間見えた勝負の行方
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国際ロボット連盟の「World Robotics 2025」によると、中国が既に工場などに導入した産業用AIロボットの数は、米国の約9倍に上り、世界シェア54%を占める。特に導入が進んでいるのが、電子機器や半導体の工場で、髪の毛ほどの細かい部品でも、AIが視覚的に認識して、ロボットがミリ単位の組み立てを行う。

実際にスマートフォン大手のシャオミは、人間がおらず、照明も必要としない完全自動の工場を稼働させ、年間1,000万台を製造している。人間ではないのでメンテナンス以外は24時間稼働し、AIが視覚的に検品する作業では、熟練検品員の速度の10倍。その精度は99%だという。 

AIを活用したスマート物流でも、中国は米国を大きくリードしている。

中国・上海
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例えば、コンテナを扱う港のターミナル。中国では一部もしくは完全に自動化させた港は、上海や青島など20ヵ所以上となっている。巨大なクレーン、コンテナを運ぶ車など、全てAIが中央制御していて、人間は管理棟からモニターで確認。24時間フル稼働に近く、ミリ単位でコンテナを最適配置できるため渋滞が減り、コンテナ処理能力は平均3~5割ほど向上したという。

同様に米国で、AI自動化システムを導入しているのはロサンゼルス港とロングビーチ港の2カ所しかない。港当たりのコンテナ処理能力は、中国の半分ともいわれるが、米国では解雇を恐れる労働組合の反発もあり、導入が進んでいない。

米シリコンバレーの焦燥「半導体の輸出制限はナンセンス」

サンフランシスコで開催された「AI Council 2026」に向かうと、深センの博覧会とは打って変わり、製造に近い企業はひとつも出展しておらず、AIで企業データベースを活用しようとする会社が目立つ。セールス部門の男性は、中国のAIに注目しているという。

「中国は、実際のインフラに近い部分で、本当に面白い事をしています。まだ人材の面でシリコンバレーに分があるかもしれませんが、米国には中国にない障壁もあります。データセンター建設には環境への懸念、労働組合との向き合いもある。過度に心配するレベルではないが、将来、北京がシリコンバレーを追い越す可能性もあると思う」

 中国は政府が開発を主導する一方、米国のAIを押し上げてきたのは民間の投資だ。2024年の1年だけで、1,091億ドル=約17兆円がつぎ込まれている。運用資産額187億ドル=2兆9千億円を誇る投資会社Altimeter Capitalは、テック系を中心としたファンドを運用している。ポートフォリオの約23%がNVIDIA株だ。パートナーのジャーミン・ボール氏は中国の実力を認めた上で、高性能チップの輸出制限を取り払うべきだと主張する。

AI Council 2026 投資会社Altimeter Capital ジャーミン・ボール共同経営者 米・サンフランシスコ 5月13日
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「(誰もがアクセスして改良できるため進化・拡散が速い)オープンソースモデルでは、間違いなく中国が米国に勝っています。またエネルギーや電力といったインフラ部門でのAI活用も発達しています。モデルでも中国が肉薄していますが、競争している以上、常に首位は入れ替わります。米国の強みはイノベーション力です。最終的に米国が勝つと信じて、賭けています。最も重要なのは、米国の半導体企業が世界のリーダーであることです。中国には豊富な電力も、大規模生産能力もある。NVIDIAの技術に近づけなくても、数の論理でチップ性能を近づけられるかもしれない。だからこそ中国市場へのチップ輸出制限に反対します。ナンセンスです。NVIDIAは中国にもチップを輸出して、世界のトップでありつづけるべきです」

ChatGPT共同開発者 “鬼才”の不安

ChatGPT共同発明者ディオゴ アルメイダ氏 AI Council 2026  米・サンフランシスコ 5月12日
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会場でひときわ目を引く、ピンクのガウンに身を包んだディオゴ・アラメイダ氏。人間からのフィードバックに基づく強化学習の開発で革新を起こし、ChatGPTの共同開発者となった。

現在はOpenAIを離れた米テック界の“鬼才”は、中国のやり方を認めつつ、AI全体への不安を口にした。

「ChatGPTのモデルが、指示に従う能力で人間を超えた時、私たちは『これはAGI=汎用性人工知能(人間と同じように自ら考えて、未知の状況に適用できる知能)なのか』と自問しました。安全性を研究するチームは公開に反対しましたが、私は『出そう』と主張し、ChatGPTは爆発的に世界へ広がりました。様々なものの自動化に役立つと考えたからです。しかし実際には、営業っぽいメールの文章作成にばかり使われました。全体利用の9割ほどでした。AIによる産業革命を起こすなら、同僚の模倣ではなく、基本部品としてAIを使うべきなのです。ChatGPTがリリースされ3年半が経ちますが、何も革命は起きていません。検索エンジンにタブが1つ増えたくらいのインパクトしかない。これはテクノロジーの、大いなる無駄遣いです」

―米中の現状を比較してどう思うか?

「私はずっと、中国の実用主義的なAI観を評価してきました。道具としてAIを使っていますからね。投資としても米国よりも良く、健全だと思います。米国はAIをある種、神のような存在にしてしまっています」

―AIは人間のために働いているのか?AIのために働いているのか?

「投資家も人間に含まれるなら、AIは人間のために働いています。残念ながら、いまのAIの最大のプロダクト(製品)は“熱狂”です。人々が盛り上がり、新規株式公開を目指して資金を回収する。本来、テクノロジーは少ない投資で大きなインパクトを与え、社会が良くなるのが理想でしょう?現在、インパクトはいま一つなのに、投資だけが多い状態です」

―社会の中でAIを使うには、まだ数段階ある?

「その理解で合っていますよ。私はAIについては、ある程度、慎重であるべきだと思います。社会全体として、慎重であるべきです。仮にSNSのようにエンゲージメントを最大化するためにAIが使われれば、最悪の社会になるでしょう。私の不安は、人間のAI依存です。信頼もなく、間違った情報にも関わらず、それに人々が気付かなくなることです。そしてどうしても、人々は無料の製品を求めてしまう。やがてAIも価格競争が始まり、利用する際に広告支援や政府のプロパガンダ支援が付くでしょう。怖い社会になってしまう前に、抑制と均衡を求めます」

―米中首脳会談ではAIの脅威についても議論される

「2つの巨人ですね。現在のレベルでは一部の人がいうような、AIが超兵器の出現に繋がるという状況ではないと思う。まだ非常に愚かな判断ミスを、沢山するからです。ただし、AIは兵器の部品にはなるでしょう。私たちが気に掛けるべきは、AIを道具として使う、作り手の信頼と評判です。根本のロジックをつくるのは、作り手だからです。優しいプロダクトをつくるなら、社会は優しい作り手を求めなければなりません」

米中首脳会談 北京 5月15日
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ピュー・リサーチ・センターの最新調査(2026年)によれば、AIが人々の暮らしに「良い影響を与える」と答えた専門家は73%に上るが、一般人の43%が「AIは自分に危害をもたらす」と不安を抱えている。

技術者が「社会の効率化」を喜ぶ裏で、一般の人々は「監視や失業」に怯えているのが現実だ。実際に、知人の中間管理職の男性(50)はAIを使って仕事をしつつも、「私は組織に不要な人間じゃないのか」と悩んでいる。

米中首脳会談を経ても、両大国はAIの主導権を巡り、火花を散らせたままだ。一般市民の間に不安が根強いからこそ、AI覇権争いの勝者を決めるのは、チップの性能でも実装化の能力でもなく、「それを扱う国家、組織。そのリーダーを信頼できるか」ではないだろうか。

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