
医師らを乗せて現場に駆けつけるドクターヘリが今、各地で運休し問題になっています。ドクターヘリの活動の現場を取材しました。
バイクの交通事故「顔面から出血、発語困難」
群馬県のドクターヘリ“基地病院”前橋赤十字病院。命の危険がある重篤な患者を受け入れます。
ドクターヘリの出動件数は、年間500件以上。県全域を20分以内でカバーし、さらに、栃木・埼玉・新潟の一部地域へも出動しています。
高度救命救急センター センター長
中村光伸医師(52)
「基地病院である以上、緊急度・重症度が高い疾患は、すべてうち(前橋赤十字病院)で受け入れなければならないんだろうという“使命”がある」
現場に着いた瞬間から始まる救命医療。まさに“空飛ぶER(救命救急センター)”です。
通信センター
「どういった内容になりますでしょうか?バイクと車の衝突事故…」
要請があったのは、重傷者のいる交通事故。一刻を争う危険な状態だといいます。
「バイクの男性となります。顔面から出血、発語困難。救急隊にあっては、まもなく到着予定とのこと」
前橋赤十字病院 フライトドクター
萩原裕也医師(37)
「了解」
通報によると、患者は40代の男性。バイクで走行中に後ろから車が追突。顔から出血しているといいます。
ヘリは最高時速200キロ超え。約30キロ先の救急隊との合流地点まで、わずか15分で到着予定です。
顔面骨折に腰も…
合流地点に到着。そして、救急車も到着。中にいる患者の容体は…。
萩原医師
「お願いします。ABC(気道・呼吸・循環)はどう?」
救急隊
「ABCは今のところ確保できているんですけど、気道の中に出血があふれてきていて、時折つまっている感じはあります」
萩原医師
「分かります?声出る?」
患者
「出ます」
萩原医師
「アンパッケージ(固定の解除)して、頭部だけ保持してもらってもいいですか?」
出血で呼吸ができなくなる危険が。声や反応から、患者の状態を確認します。
萩原医師
「お口開けて。結構(血が)垂れ込む?」
救急隊
「むせる感じあります?」
患者
「さっきよりは…」
消防による処置で、患者は会話ができる状態を保っていました。しかし…。
患者
「痛い…」
萩原医師
「どこ痛い?これ(胸部)痛い?」
救急隊
「腰部のあたり痛い?」
患者
「ここ痛い」
患者は腰を指さし、痛みを訴えます。患者の状態を確認し、すぐに病院に連絡します。
萩原医師
「受傷部位は顔面メインで、あとは左胸部と右の胸部から腹部にかけて擦過傷。あと左の腰部か。たぶん、顔面骨折はどこかにしてるんだろうな」
医師
「分かりました」
萩原医師は、患者に複数の骨折の疑いがあると判断。救急隊だけでは難しい診断や治療を、医師が現場で行うことができるドクターヘリ。早期治療につなげるうえでも、大きな役割を担っています。
骨盤も大きく2つに…
このころ、病院では。
看護師
「帰ってくるの?」
医師
「後ろから乗用車がバイクに突っ込んだみたいな。バイクが横転。顔面メインで結構骨折はあると思う」
「いろんなところに擦過傷があるらしい」
看護師
「処置室に入れるか」
萩原医師の指示を受け、患者の受け入れ態勢を整えます。出動要請から約50分。患者を乗せたヘリが病院に到着。
患者
「腰が痛い…」
骨折箇所を探るため、CT検査で身体の状態を確認します。すると…。
医師
「結構バキバキだね」
看護師
「顔がバキバキってこと?」
医師達
「顔がバキバキ」
検査の結果、萩原医師の予想通り、顔面の複数箇所で骨折が判明。3D画像からは、骨折が広範囲に及んでいることが分かります。
萩原医師
「これ見ると、だいぶヒビ入っちゃっているので。一カ所の骨折とは言えないぐらい。顔面骨多発骨折という診断にはなっちゃうかなと思う」
さらに…。
「骨盤という部分になるんですけど、右側は骨がつながっているんですけど、ここは骨が途切れちゃっている」
患者が訴えていた腰の痛み。骨盤も大きく2つに割れてしまっていました。すぐに処置を行い、そのまま入院。その後手術を経て、快方に向かっているといいます。
萩原医師
「やっぱりけがに関しては、救急隊だけではできない治療とか診断というのが、我々医師ではできる。早く患者さんに出会って診察できるというのは、非常に(ドクターヘリの)有用性が高いのかなと思います」
支える医師 救命の想い
この病院に勤務する萩原医師。待機時間には後輩医師の指導にあたり、“ドクターヘリチーム”を支える医師の一人です。
萩原医師
「(Q.(携帯の)待ち受けご家族?)待ち受けはそうですね。最近生まれた下の娘です」
「下が0歳、2番目が2歳、1番上が5歳ですね。ヘリを見ると、呼びかけてくれるみたいです」
「より高度な救命医療を学びたい」。その思いから6年前、北海道の病院からやってきました。
「(Q.きょうのお昼は?)妻に作ってもらいました。豚丼とサラダ」
「(Q.お味はいかがですか?)おいしいです」
いつ出動するか分からない現場。食べられる時に食べる、それが日常です。
「元気になって退院していく患者さんとか、集中治療で寝たきりで意識もなかったような人が、一般病棟にいって、たまに集中治療室に会いに来てくれたりするんですけど、それを見ると、やっぱりよかったなと思いますね」
心筋梗塞か 一刻争う判断
通信センター
「ドクターヘリの通信センターです。胸痛…。救急車の方はまだ着いていない感じですか?」
この日も、萩原医師のもとに出動要請が入ります。患者は70代の女性。胸の痛みを訴えていて、心筋梗塞(こうそく)など、命に関わる病気の可能性もあります。
萩原医師
「傷病者情報を教えて下さい」
消防
「女性。事務作業中にめまい、および胸痛が起きたもの。(総合病院に)大動脈解離でかかりつけ。(クリニックに)高血圧でかかりつけ」
合流地点までは約28キロ、10分ほどで到着。まずは患者本人に既往歴を確認します。
看護師
「手術はしてないですもんね?大動脈解離は」
患者
「した…した」
看護師
「じゃあ、取り換えたの?血管パカッと」
患者
「はい…」
患者は、心臓の大きな手術歴がありました。
萩原医師
「大動脈解離した時、多分痛かったと思うんですけど、それが10点満点だとしたら、今回何点?」
患者
「んん…5…」
萩原医師
「5点くらい?締め付けられる感じ?」
患者
「そうです…」
萩原医師
「(通院先の総合病院まで)陸送だと何分?」
救急隊
「陸送だと30分、35分くらいですね」
萩原医師
「(ヘリの搬送時間と)あんま変わらんか…。陸送で行っちゃいましょう」
手術をした病院での治療が最善だと判断。搬送時間も大きく変わらないことから、救急車でかかりつけの病院に搬送されました。
「呼吸不全」迅速な連携
救急車では搬送に時間を要する山間部では、ドクターヘリが活躍します。この日、要請が入ったのは。
通信室
「アナフィラキシー疑い。左目が腫れている。以前にも同じ症状でアナフィラキシーと言われた。ただ、何がきっかけのアナフィラキシーかは消防も聴取できず。かかりつけ病院も分からず」
アナフィラキシーとは、アレルギー反応が全身に急速に広がり、命に関わることもある重い症状です。消防と連絡を取り合い、患者の情報を集めます。
中村医師
「患者情報送れれば、一報送信願います」
救急隊
「声に嗄声(させい)(声のかすれ)あり。呼吸不全」
中村医師
「了解。これから着陸します」
山あいの合流地点に到着。
医師
「口のむくみが…」
看護師
「すごい?」
医師
「すごい…」
患者の口の中にも強い腫れが。このまま症状が進行すれば、気道がふさがる恐れがあります。
医師
「ちょっとね、アレルギー強いのが出ているので、太ももの所から筋肉に注射します。アレルギーの薬をね」
「きょう、何月何日か分かる?」
声がかすれ、会話がままならない状態。山道の搬送は患者への負担も大きいことから、ドクターヘリで近くの総合病院へ搬送します。
要請から47分後、患者の搬送が完了。迅速な連携が、患者の命をつなぎ止めました。
中村医師
「今回の症例はギリギリです。緊急の処置を行わせていただいて、症状の進行を抑えるようなことはできた。これが10分遅れていた場合には、心臓が止まる状況に陥っていた可能性」
(2026年6月8日放送分より)
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