W杯イラン代表 “テヘランゼルス”で孤立無援の戦いに?

W杯イラン代表 “テヘランゼルス”で孤立無援の戦いに?
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 アメフトの国アメリカでも、サッカーW杯に向け熱気が高まる中、ロサンゼルスで最も注目を集めるのが、イラン代表チームの動向だ。初戦と2試合目が当地で行われるが、開催国が戦闘状態にある国を迎えるのは、W杯96年の歴史で初めて。トランプ大統領のディールは未だ発動されず、イラン代表は開幕前から苦戦が続いている。

【写真】緊張高まるLA 同胞によるデモも…

国際親善試合に臨むイラン代表 トルコ/5月29日
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開幕前から“苦戦”つづきのイラン代表チーム

■5月
代表チームが事前合宿地トルコに到着。FIFAと会談
ベースキャンプ地をアリゾナ州からメキシコへ変更

■6月
開幕まで2週間を切るも米ビザ発給されず。イラン側がFIFAに抗議
試合の10日前に選手らへはビザ発給も、一部の同行スタッフ分は却下

 ここから両国の舌戦が、一気に激化する。在メキシコのイラン大使が「選手は試合日しか米滞在が認められておらず、何度も長距離移動を強いられる」と発言すると、米政府は直ちに「寛大なトランプ大統領のおかげで、イラン選手は試合前日から滞在できる」とやり返した。当初は国境のキャンプ地ティファナからロサンゼルスへ、片道3時間のバス移動も考えられたが、トルコメディアの取材に応じたイランサッカー連盟によると、FIFAがチャーター機を用意し、全試合で飛行機移動することで落ち着いたようだ。チャーター機であれば、ロサンゼルスまで片道30分ほどに短縮でき、第3戦のシアトルにも3時間で直行できる。いくら戦闘状態にあるとはいえ、これはスポーツの大会。双方が着地点を見出したようにみえたが、イラン代表にとって最大の敵は、アメリカ政府ではなかった。

ビザ申請のためにトルコ・アンカラにある米国大使館を訪れたイラン代表選手ら 5月21日
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最大の“敵”は同胞?

SoFIスタジアム前でのデモ  7日/カリフォルニア
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 ロサンゼルスには世界最大のイラン系住民が暮らし、通称テヘランゼルスとも呼ばれている。その数は50万人規模といわれ、試合では大声援が送られるかに思われたが、当地では在米イラン人が代表の参加取りやめを求め、抗議活動を続けている。7日には試合が行われるSoFiスタジアム前で、王政復古を求める団体が大規模なデモを展開し、「イラン代表を応援しないように」と訴えた。主催者によると、イラン初戦の15日も同様のデモを行うという。「本当は応援したいのだけど」と思う人にとっては、まるでストライキのピケ隊だ。顔が割れようものなら、「あの人は応援していたよ」と、コミュニティで仲間外れにされる恐れもある。

イラン国民抵抗評議会によるデモ 米・ロサンゼルス/10日
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 王政ではなく民主化を求めるグループ(イラン国民抵抗評議会)も、黙ってはいない。10日には市役所前の広場をジャックして練り歩き、抵抗歌を2曲も熱唱。普段は王政復古派と対立しているが、現イラン代表を認めないのは同じで、FIFAに出場停止を求めた。双方とも、「イランサッカー連盟は、現政権(イラン革命防衛隊)の管理下にあり、大会規定に反している。いまの代表を認めることは、現政権の市民迫害を認めることになる」という主張だ。

練習をするイラン代表の選手ら トルコ/5月19日
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 そんな中、FIFAがイランサッカー連盟に割り当てていたチケットを、全てキャンセルしたという。イラン側は「ファンに1枚も配布出来ない」としていて、3試合で1万人超のサポーターを失ったことになる。チケット高騰が問題視されるなか、当初リセールサイトを確認すると、約2万4000円で売り出されたイラン初戦は、リセールサイトで約6万4000円まで上がっていたが、抗議活動の成果もあってか、現在は4万8000円ほどに値下がりしている。ダイナミックプライシングは、嘘をつかない。

亡命先から米国入りした元イラン代表選手

 1978年に始まったイラン革命の前に、代表ミッドフィルダーとして活躍したアディビ・アズガルさんに、縦横無尽にピッチを駆け回り、当時は「四つの肺を持つ男」と呼ばれていたそうだ。「名前を覚えるのが苦手で…」という彼に、当時の日本代表の写真を見せると「Oh! Kamamoto!」釜本邦茂さんは、やはり「世界の釜本」だった。サッカー談義に花が咲き、イランの名門ペルセポリスFCの選手として、1969年の第2回アジアクラブ選手権で東洋工業(現サンフレッチェ広島)に敗れたことを、昨日の事のように悔しがり、明るく話す。ところが、イラン代表の話になると表情が一変した。

アディビ・アズガルさん
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アディビ・アズガルさん
「このチームはイラン代表ではありません!私の仲間も弾圧され、亡くなりました。いまはチームが負けると、喜ぶ国民が大勢いるのです」

現政権に迫害されたとされるスポーツ選手ら写真が並ぶ 米・ロサンゼルス/10日
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選手引退後、イラン国民抵抗評議会の活動に入ったアズガルさん。見つかれば処刑という状況に耐えかね、海外へ亡命。現在はフランスに暮らしている。わざわざ大西洋を渡り、ロサンゼルスまで現政権に文句を言いに来たのだ。

アディビ・アズガルさん
「私は祖国を愛していて、イラン代表だったことが誇りです。当時、無敵といわれたチームを、誰もが応援してくれました。現在、政権に批判的な選手は干されます。実際にサッカー連盟の会長は、元革命防衛隊の幹部なのですから。選手に罪はないかもしれないが…やはり現チームを認めることは出来ません。先輩である私がそう言うほど、いまのイランはひど過ぎます。体制が変われば、私は1分たりともここにいません。自由が訪れた日、私は母国へ帰り、後輩を育てます。また最強のイラン代表を一緒につくりたい」

最後に日本代表の注目選手を聞くと、「トッテナムでキャプテンをしていた…」と言い出したので「それは韓国のソン・フンミン選手です!」と突っ込むと、「まあアジア勢みんなで頑張ろう!」と明るい表情に戻ったアズガルさん。本当は、いまのイラン代表の後輩にもエールを送りたいのかもしれない。「スポーツに政治を持ち込むな」というのは、組織にだけ求めるものではない。私たちファンも同じだ。イランの初戦、スタジアムはどんな雰囲気か想像もつかない。ただそこに、サッカー愛があることだけを期待したい。

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