■防災・原子力、それぞれの現場で深刻化する「人材の空洞化」
津波・水災害に関する防災を専門とする関西大学学長の高橋智幸氏は、防災研究の現状についてこう語る。「現時点では日本の防災研究は世界のトップレベルにある分野が多い。海外の災害の多い国から若い研究者が日本に学びに来てくれている状況もある」。ただし、今後の見通しには懸念を示す。「今後減っていく可能性があり、せっかく日本が得意なところが弱くなる」と述べ、「今ならばまだ研究者を増やして維持できるところにある」と訴える。
さらに高橋氏は、研究者だけでなく実務を担う技術者の不足も問題視する。「行政において防災をデザインする、コミュニティの防災をデザインする、それを実現する実務者にも専門性が求められる。防災研究者以上に不足が始まっている」と説明する。海外では行政でも民間企業でも博士号を持つ人材が多いという。
原子力工学を専門とする東京都市大学理工学部教授の高木直行氏は、原子力分野の人材不足についてこう述べる。「原子力の人材は足らなくて困っている。企業・研究機関はどうやって人材確保するかに苦心している」。技術力の低下とノウハウの断絶も深刻だとして、「技術伝承が途切れてしまうことが非常に大きい」と語る。2011年の福島第一原発事故後に多くの大学が原子力学科の看板を下ろした経緯があり、人材育成が十分になされなかった時期の影響が今に及んでいるという。一方で、2022年ごろから政府方針が「原子力を最大限活用する」へと転換したことで状況は変わりつつあり、「うちの大学の学生たちが元気になったというのを肌で感じている」とも話す。
研究者のキャリア問題に詳しい病理医の榎木英介氏は、自身の経験を踏まえてこう語る。若手研究者の民間企業への就職は少しずつ改善しているものの、大きく広がっているわけではなく、「大学などに残ると、任期付きの雇用で点々とするという研究者がとても多い」という。3年・5年と期限付きの契約で雇用され続け、いつか大学の教員ポストを得ようとするが、雇い止め問題もあり「なかなか次のステップに行けないという研究者がたくさんいる」と述べる。将来のキャリアパスが見えないことで、若手が研究者の道をなかなか選ばなくなる状況が生まれているとも説明する。
また、博士号取得後に任期付きの研究職に就く人は「ポスドク」と呼ばれる。こうした人たちが安定したポストを得にくい、いわゆる「ポスドク問題」について質問が飛ぶと、榎木氏は「大学に行っても助教授や准教授ぐらいの期間付きが結構多い。常にプレッシャーに追われ、論文を書かなきゃいけない、研究費を取らなきゃいけないと追われ続けている。精神的なプレッシャーがすごいという話はよく聞く」と説明する。40歳を超えてもキャリアの見通しが立たないケースも多いとした。
■「博士号取得者=研究者」という固定観念を変えたい
