■数学の超難問をAIが次々と解決、置き去りにされる人間の「検証」
現代数学における七大難問の1つに数えられ、2000年にアメリカのクレイ数学研究所が選定した「ミレニアム懸賞問題」の1つでもある「ナビエ・ストークス方程式」。それぞれ解決すれば100万ドル(約1億6000万円)の賞金がかけられている超難問である。
先月、OpenAIは開発中の約1万のAIエージェントを並列稼働させ、このナビエ・ストークス方程式の解決策をわずか88時間で見つけたと発表した。さらに、そのわずか1カ月後には、リーマン予想といった未解決問題を含む約4000問の数学の難問に挑戦し、700本以上の数学論文を公開するに至っている。
この事態に対し、数学界からは「学術的貢献ではなく権力の誇示である」との反発や批判の声が上がっている。人間が何年、何十年と取り組んできた数学の難問に、AIが圧倒的な速度で答えを胎児する一方、その正しさを人間が検証する作業が全く追いついていないのが現状だ。AIが導き出した答えを十分に検証できないまま、次の研究が進んでいく可能性が指摘されている。
番組では、理論物理学者の野村泰紀氏がこの問題について解説した。野村氏によると、ナビエ・ストークス方程式は液体や気体の動きを表すものであり、飛行機の設計や気象のシミュレーションなどに応用され、実生活での用途がわかりやすい物理学の例だという。
しかし野村氏は、AIが答えを出すことの問題点について、「数学の超有名なフェルマーの最終定理ですら、それを解くためにものすごくいっぱい新しい数学をみんなが作った。そうした新しい体系が物理学や工学に使われ、エンジニアリングとして役立っている。これを解いたということよりも、そこに至る活動が結構重要」と説明。AIが難問の答えを次々と導き出すことで、人間が解決に至る過程で「新たな理論」や「知識」を生み出す機会が失われる可能性を指摘した。
これまでの人間の知的活動は、誰かがここまでやったという足跡の上に、また別の誰かが新しいアイデアを足していく形で進んできた。しかし、AIが過去の研究成果をどのように利用したのかが分からない「ブラックボックス」の状態で、大量の答えを瞬時に出してしまうことで、人間が作り上げてきた「解いた時の利益」が得られなくなるというのだ。

