9月10日夜に行われた対巨人戦で、実に25年ぶりのリーグ優勝を手にした広島カープ。そんな大一番を任されたのは、もちろん、昨シーズンから日本球界に復帰してチームを牽引し続けているレジェンド右腕・黒田博樹であったが、そんな彼の言葉は昨年発売された『日本人メジャーリーガー 50人の言球』(竹書房)に詳しい。
松井秀喜、イチロー、野茂英雄、ダルビッシュ、松坂大輔…といった“海を渡った日本人メジャーリーガー”たちが、それぞれの置かれている状況や厳しい戦いの中で、ふと漏らした言葉を言葉を紹介している同書。その中で登場する黒田の言葉といえば、やはりこの一言だ。
「野球人生の集大成というか、覚悟を決めてやろうかなと思っている」(同書P.74より)
この言葉は、現在の所属チームである広島から渡米し、ドジャーズへと入団した黒田が、4年間もの間、先発の柱として活躍した後に、名門として知られるニューヨーク・ヤンキースから誘いを受けた際に口にしたもの。無論、同チームでの活躍や、さらにその後、黒田は古巣への復帰を果たすこととなったことは、世人の多くが知るところであるが、この言葉を見る限り、少なくともこの時点において黒田は、古巣への復帰を考えておらず、米国での完全燃焼を考えていたのかもしれない。もし仮に彼の言うところの「集大成」が米国で行われ、そこで完全に燃え尽きてしまっていたとら、広島への復帰はなかったであろうし、広島というチームの躍進についてもどうなっていたかはわからない。逆に言えば、それだけ広島にとって黒田の存在は大きく、まさにレジェンドと呼ぶに相応しいものであるということだろう。
ちなみに、そんな黒田と言えば、同書でも紹介されているように、渡米前から、いわゆる“無援護病”で知られ、いくら好投していても打線の援護に恵まれずに、結果として黒星を喫する場面が少なくなかった。
しかも、その現象はなぜかメジャーに渡ってからも続き、そのある種の“悲運のエース”ぶりは、彼がメジャー7年間で記録した79勝79勝という数字からも伺い知れる。しかし40歳を迎えて広島に復帰した後は、以前よりも幾分そうした傾向は薄れ、今年も援護率は3.37と、お世辞にも「良い」とは言えないが、シーズンワースト記録した2006年の2.82(逆に黒田の防御率は1.85)に比べれば、確実に改善されていると言える。つまり、「黒田を勝たせよう」という野手陣の奮起を含めた“黒田効果”も、結果としてチーム全体の躍進へと繋がったと言えるのかもしれない。
「メジャーに連れて来られた訳じゃない。自ら望んでここに来たんです」(同書P.58より)
そう言って渡米した当初、現地メディアの多くはさほど大きな評価をしてはいなかったが、結果としてそうした下馬評をハネのける大活躍を見せ、いつしかメジャー屈指の右腕となった黒田。
そんな彼は、渡米時と同様に「自ら望んで」古巣への復帰を果たし、かつて自身が在籍していた当時はプロ入りすらしていなかった若い世代の選手たちと共に、チームを25年ぶりの悲願の優勝へと導いた。これからCS、さらには日本シリーズ優勝への期待が高まる中、彼がどのような活躍を見せ、どのような言葉を残すのか、プロ野球ファンならずとも注目したいところだ。