とある企業の営業マンが、実はプロ麻雀のタイトル経験者だ。情報通信機器の販売を行う「スターティア」の社員・櫻井秀樹さん(38)は、コピー機などのルートセールスを担当する営業マンだが、同時にプロ雀士でもある。しかもタイトル経験者だ。「タイトルを取った後、普通では会えないような人たちに会えた」と振り返る櫻井さんに、麻雀との関わりについて聞いた。

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 スーツ姿でオフィスにいる姿を見れば、いたって普通のサラリーマンだ。ところが麻雀界では、約600人が在籍する最大規模のプロ団体「日本プロ麻雀連盟」で強豪を倒し、ビッグタイトルの1つ「十段位」を獲得した実力者として知られている。「会社では、あんまり反応はないですけどね。たまにネット配信なんかで『対局見たよ』とは言われますけど」と笑った。

 飄々と話す様子とは裏腹に、麻雀と共に生きる人生は熱情的だ。大学卒業後、大手ハウスメーカーに就職、出身の山口県で働き始めたが、「麻雀プロになりたい」とわずか5カ月で辞めた。「父親が(日本プロ麻雀連盟会長の)森山さんと知り合いで。たまたま山口にいらっしゃった時に、プロになりたいと言いました」。学生時代には大会にも出場していただけに、麻雀への思いは強かった。「父親には反対されましたけどね」と言いつつも、単身上京し、麻雀プロとしての生活を始めた。

 プロとして対局しながら、麻雀店で働き、カルチャースクールで講師も務め、収入はそれなりにあった。26歳で結婚、29歳で1人目の子供を授かった時「奥さんが幼稚園に入る時とか、(職業を)答えづらいかなと」思い、就職先を探した。再就職した会社から、後に今勤めるスターティアに転職。その際「特に言う必要もなかった」と、麻雀プロであることは、ごく近しい人以外には明かしていなかった。

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 状況が変わったのは、タイトル「十段位」を取ってからだ。ちょうどインターネットによる対局番組の配信やゲームが増えた時期と重なり、所属する団体から出演を求められた。「平日に休むことも出てきたし、何より収入が入ってしまう。当時、うちの会社は副業禁止だったので」。必要に迫られ上司に「会社を辞めた方がいいですかね」と相談すると、副業を認められたという。

 タイトル保持者になったことで、思わぬ出会いも増えた。対局番組での打ち上げをきっかけに、企業の社長クラスと会話する機会に恵まれ、後に対局することにもなった。「いろいろなところに呼んでもらいました。普通に働いていたら話す機会がないような人と話せた」と振り返った。その後、スターティアには麻雀部ができ、社員の採用試験に麻雀を取り入れる「麻雀採用」が行われるまでになった。

 櫻井さんは営業マンと麻雀プロを両立しながら、次のタイトル奪取を目指している。「働かずに打っていた時の方が反射神経はよかったかもしれないですが、麻雀店の店員とかと惰性で打ってしまったこともあって。今でも毎日打つようにはしていますが、競技のためにと打っているからか、成績は今の方が安定している」という。

 改めて麻雀の魅力について聞かれると「もう分かんないんですよね。いろいろなものを捨ててまでやってきましたから。競技となれば楽しいっていうことは滅多にないし。でも優勝したら、うれしいですよ。10年に1回ぐらい、やっていてよかったと思うためにやっている、そんな感じです」と苦笑いした。再びタイトルを手にした時は、表現できない満足感と、新たな人々との出会いが待っているかもしれない。

(C)AbemaTV

(写真提供:日本プロ麻雀連盟)

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