様々なジャンルで難題に立ち向かい、日本に最も影響を与えると思われる人達を選ぶ、日経ビジネスの「次代を創る100人」。昨年、東京都の小池百合子知事や将棋の藤井聡太四段、野球の大谷翔平選手などと並んで選出されたのが、アクセプト・インターナショナル代表理事の永井陽右さん(25)。
同誌のチーフ企画プロデューサーの柳瀬愽一氏は永井さんのことを「新しいマーケットに挑む若者の一人、次代を創る"探検家"の一人です」と評する。
「嵐の櫻井君に似ていると言われませんか?」と尋ねられると、「目だけ…?」と爽やかに笑う永井さんだが、実は学生時代から、紛争が続くソマリアで支援活動を行なっているのだ。
2016年に発生したテロ・武力衝突の件数を可視化した地図を見てみると、とりわけソマリアに集中していることがわかる。
「ソマリアの紛争は1980年代後半に始まり、1991年には政府がなくなってしまいました。ソマリアが特異なのは、紛争に携わっている大人たちが、子ども達を自爆テロや兵士として使っていることです」。
■"比類なき人類の悲劇"とまで言われる現実
東アフリカに位置する国、ケニア・イスリー地区。なんと、この地に暮らす人の9割は隣国ソマリアからの難民で、その数はおよそ10万人にも上ると言われている。
彼らが故郷を逃れなければならなかった理由がソマリア内戦だ。91年の政府崩壊後、21年にわたって「無政府状態」が続き、国連がアメリカを中心とする多国籍軍を派遣するも鎮圧に失敗。追い打ちをかけるように、度重なる飢饉が襲ったのだ。国民の多くが、命からがらケニアへと逃れてきた。
ところが、ケニアで彼らを待っていたのは厳しい現実だった。
「僕の家族はみんなドラッグを使っているよ。お父さんは密売をやっていたしね」
「何度逮捕されたか覚えていないくらいだ」
「いきなりショットガンで撃たれた。安住できる場所はどこにもない」
「ドラッグを使うと馬鹿なことをやっちゃうんだ」
「ソマリア人」というだけで、ひどい差別を受ける。
「ケニアの警察は俺たちを差別しているんだ。しかも賄賂を要求してくる、やりたい放題だ」
「この社会に自由なんてないんだ。差別は横行しているし、行政は腐敗している」
「生きるためには自分で自分の身を守らなければならない」
失業率は80%を超えている。蔓延するドラッグ、日常的にさらされる暴力や差別。多くの若者たちは自分の身を守り、生きるために「ギャングになる」という道を選ぶしかなかった。報復を恐れ、グループから抜けられない人も多い。
「ギャンググループに入ればグループが安全を保障すると誘われたんだ」
「家族を養うためにストリートで金を集めるギャングもいる」
長引く内戦の中、イスラム過激派組織が台頭。ギャングとなった若者たちが、今度は過激派組織のリクルートの対象となる。祖国を失い、社会からも見放された怒りや不満につけ込み、戦闘員にされていった。
■"一番いじめられている人たちは誰だろう"と考えて…
そんなソマリアの若者が置かれた現状を見過ごすことはできないと行動を起こしたのが、当時大学1年生だった永井さんだった。
「子供の頃、いじめをしていたグループに属していたのですが、腹の底から反省して、大学ではいじめられている側を助けようと。そこで"一番いじめられている人たちは誰だろう"と考えた時に、ソマリアの紛争を知りました。史上最悪レベルの飢饉に陥っていて、政府が事実上機能していない、と」。
当時、全国的に国際協力がブームになっており、多くのNGOが活動いたが、危険すぎるという理由で、ソマリアの問題を手がけるところは一つもなかったのだという。「誰もできないなら自分でやってやろうと思った」。しかし、学生の永井さんには資金も知識もなかった。
模索する日々の中で、アフリカでの人道支援経験者や海外のNGO関係者に話を聞くうち、あることに気付いた。それは、過激派組織のリクルート対象にされ、"テロリスト予備軍"とも呼ばれている「若者ギャング」たちが、自分と同年代だったということだ。
「"彼らは20歳だよ"と言われて、"20歳!?同じ年じゃん"って。でも、同じ年なんだったら、もしかしたら、それが一つの切り口になるのかなと思って」。
多くの危険が予想されたが、それでも永井氏は「同世代だからこそ不信感を抱かずに対話ができるのではないか」という信念のもと、ギャングたちを更生させるプロジェクトを始動させた。
現地へ赴き、ギャングたちと接触。社会復帰のためのプログラムを検討したり、政府や国際機関とも連携したりして、ギャングを受け入れる体制を整えていった。
「大人たちはどうやらギャングたちにアクセスすらできていなかったんですね。対話の場を構築するというのも、実は我々が学生だったからできたことなんです。彼らを駆除の対象にして"ギャングをやめろ"というのではなく、"Youth"、同じ若者として接したんです。仲良くなれば、本当にその辺の若者と同じです」。
■小学生に講演をするギャングも現れる
遠く離れた日本から、仲間たちと電話やチャットを使って定期的にカウンセリングを行う永井氏。継続的に連絡を取り、進捗を確認している。
「やっぱり社会から断絶されているというか、孤立しているからこそ、固まって、過激化してしまう。そうさせないためにも、僕たちがいつも気にかけているよ、遠い日本からでも行くよ、というのを知らせ続けることが大事なんです」。
現地のNGOとも協力した永井さんたちの継続的な支援により、現地のギャングたちに少しずつ変化が生まれはじめている。
「この状況を変えたい。そのために俺たちは一つにならなければいけないんだ」
「もうギャングとして見られるのはごめんだ。人生はそんなに簡単じゃないってことだ」
と話し、他のギャングにも声をかけ、自分たちで小学校で子どもたちに講演をする人も現れるようになった。悪循環を断ち、ギャングになることを未然に防ごうという動きが出始めたのだ。
「ギャングたちが"俺はここで初めて受け入れられた"、"お前たちは初めて俺をジャッジしなかった、レッテルを張らなかった"と、そういうところに嬉しさ、感動するポイントを見出しているんです。そういうのを聞くと、やっぱり僕達だからできたし、僕達がやることに価値があるんだなと思います」。
また、ソマリアの首都モガディッシュで生まれ、ケニアでギャングとなったアブディラシードさん(21)は、永井さんの更生プロジェクト「Movement with Gangsters」の経験者だ。もともと真面目な性格のアブディラシードさんは、プロジェクトに熱心に取組み、ニュージーランドの大学へ進学した。将来、ボロボロになった母国を再建したいという思いから、土木工学を専攻している。
永井さんは「大学に進学した時、長文の連絡がきました。"あなたが私を変えてくれた"という内容で、とても感動しました」。
今年に入ってからも、ソマリア沖で海賊行為が再び増加していること、政府支援の米兵が死亡したこと、そして世界の汚職番付で一位になったことなど、ソマリアをめぐるニュースは暗い話題ばかりだ。
今後の目標を永井さんに尋ねると、これまでの支援は継続しつつ、去年の夏頃から"本丸"であるソマリアの最前線で始めた『降参した兵士への脱過激化プロジェクト』を本格化していきます」と話した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)