2000年代前半、地上波でK-1、PRIDEを始めとした格闘技が普通に流れ、高視聴率を獲得していた。もっとも多くの人がテレビを観るであろう大晦日の夜には、格闘技大会が紅白歌合戦の向こうを張り、オンエアされていたのである。特に2003年は、日本テレビがINOKI BOM-BA-YE(猪木祭)を、TBSがK-1系の「Dynamite」を、フジテレビが「PRIDE男祭り」を中継し、格闘技が最も盛り上がった年となった。その後、地上波から格闘技中継は続々と消滅し、格闘雑誌「ゴング格闘技」が2017年4月発売号をもって休刊。格闘技は今、盛り上がっているのか? かつての「ブーム」と今はどう違うのか。「ゴング格闘技」の休刊号の表紙を飾った柔術家で格闘技道場のパラエストラ東京代表の中井祐樹氏(46)に聞いた――。
PRIDEがありし日、私達の道場の入門者は確かに多かったです。一見盛り上がって見えたのは間違いないです。そうした時代を知っている方からすれば、今は格闘技界が盛り下がって見えるかもしれません。ただ、道場の側から見れば、あまり変わっていないのではないでしょうか。そりゃあ、あれだけ地上波でオンエアされ、スポーツ紙でも大きく取り上げられれば格闘技を見る機会は多くなるため、今よりも個々の道場生の数は多かったです。ただ、格闘技を習う場所は、あの頃の比ではないほど多数存在するんです。
そうした「場」が広がったから、個々の道場の入門生の数は少なくなっているかもしれませんが、正直ウチはあまり人数変わっていません。ガクッと落ちたかのようなイメージはあるでしょうが、あまり変わっていないですし、他の道場関係者の話を聞いても、下がっているという実感はあまりないです。
2000年代前半の格闘技ブームの時は良かった――という気持ちはあまりないです。テレビの中継があったのは業界にとっては良かったですが、もっと根付いて欲しいかったですね。というのも、私は、この世の中の皆が何かを嗜んでほしいと思っているからです。それは、音楽でも茶道でも、スポーツでもなんでもいい。
その中でも格闘技を嗜むと、危険を避けたり、身を守ったりすることが可能になります。日々の鍛錬をしていますから、少なくとも走れるようになる。自らの身を守るには、相手を殴ったりはしないまでも、走って逃げたりできなくてはいけないのです。危険回避の観点からも、格闘技、武術、武道はやっておいた方がいいのです。礼儀が正しくなるのも副次的にはあるかもしれませんが、体と体をぶつけあって、ぶつかり合うことによって得られるものってのはあります。言葉にしづらいところはありますが、公園で子供たちが集まってゲームやっている場面をよく見ます。そういう遊び方もあるでしょうが、身体と身体をぶつけ合うこともなかなか爽快なものですよ。格闘技をやるからには、老若男女問わず、トレーニングをしてもらいたいですね。走ったり、バーベルを上げたり、何らかの身体運動をすることは身体に良い影響をもたらします。
格闘技というのは、卓越した人がやるのを「観る」だけでなく、本来は自分事化できるものなのですよ。2000年代の格闘技ブームがそういったムーブメントを起こしたかどうかでいえば、決してそうではありません。だから私は一見盛り下がっているかのように見える今、道場には誰でもウエルカム、という姿勢を見せて格闘技をより身近にしていきたい。
あのブームの頃、今よりも格闘技をやる人の人数が多かったかというと、今の方が人数としては多いかもしれない。業界に携わる者としては、「一見大幅に増えた」ように見える、あの時でさえ人数は足りていないと思っています。しかし、桜庭和志選手や魔裟斗選手みたいな、誰にも知られるような存在が、あの時は生まれました。そういった意味では、我々も今の時代に、あの2人のような選手を世に輩出していきたいな、と考えています。
文/AbemaTIMES編集部