■「音楽教育を守る会」は"司法に判断をお任せするしかない"
音楽教室からも著作権料を徴収する方針を示したJASRACに対して、反発が広がっている。
これまでJASRACは、社交ダンス教室やフィットネスクラブなどへ、著作権料の徴収範囲を広げてきた。5月24日の定例記者会見でJASRACの浅石道夫理事長は「私たちはお話し合いの中で解決できると判断しております」とコメント、来年1月から受講料のうち2.5%を著作権料として徴収する方針を示している。
この方針に対し、ヤマハ音楽振興会をはじめとして、音楽教室を運営するおよそ340の会社や団体で構成する「音楽教育を守る会」は、5月30日の総会で集団訴訟することを決定した。
同会の事務局の功刀渉氏は「自分の好きな曲を弾きたいと思うのが普通だと思いますし、教える方も好きな曲を弾かせてあげたいと思うのが普通だと思います」と講師たちの気持ちを代弁。「JASRACさんは4月に『それは音楽教育を守る会の意見を言っただけで、各社の意見とは認められません』という回答をしました。ですので、司法に判断をお任せするしかないなと思い、訴訟の準備を進めてきた」と話す。
一方、JASRAC作家正会員のある作詞家は「ベートーベンなどの教則本は対象ではない。例えば『ユーミンをピアノで弾きたい』といった場合のような、JASRACの管理曲が対象。バイエルのみを練習する子どものピアノ教室等と一緒にするような言い方は誤解を招く」としている。
■『公衆に聴かせるための演奏』に当たるのか
知的財産の問題に詳しい福井健策弁護士は、「世界的にみてコンテンツ産業の売り上げが落ちてくる中、それをなんとか維持しようと、カラオケ教室、フィットネススタジオ、プロレスの入場曲に至るまで、徴収を拡大してきた。今回、とても微妙な所に徴収の手を伸ばしてきたなという印象がある」と話す。
JASRACが著作権料を徴収する際の線引きは「営利目的か否か」。カラオケや喫茶店、結婚式やお葬式は徴収の対象となっている一方、ギャラの支払いを受けない生徒による文化祭でのコピーバンド演奏、甲子園名物のブラスバンドは徴収の対象外だ。また、法律には例外規定があり、私立校であっても学校の授業は非営利目的とみなされず、対象外となっている。
この問題が最初に報じられた2月、歌手の宇多田ヒカルさんは「もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな。」とツイートしているが、福井弁護士は「この利用のときだけは徴収しないで、といった対応は簡単なことではない」とも話す。
そもそも著作権は、複製権、公衆送信権などを束にした概念だ。福井弁護士は、その中でも「演奏権」が今回の焦点だと指摘する。
「コンサートのような場での『公衆に聴かせるための演奏』は許可を取るのが原則。しかし、音楽教室の生徒も公衆にあたるのか、生徒の演奏や講師の模範演奏が公衆に聴かせるための演奏にあたるのか。コンサートの前の練習行為のようなものであっても、許可が必要な利用にあたるのか、というのが論点だろう」(福井弁護士)
つまり、音楽教室での演奏は「学校と同じく教育目的の演奏で、『公衆に聴かせるための演奏』には当たらない」という「守る会」側の主張が認められるかどうかが問題だということになる。
さらに福井弁護士は「お金(著作権料)のやりとりの問題だけではない」と述べ、「音楽教室での指導の場合にも演奏権が適用されるとなれば、JASRACが管理していない曲のように、著作権者がわからない曲など、許可が取れない場合は音楽教室で教えることはできなくなってしまうという問題をはらんでいる」と指摘した。
■JASRACは"バランス感覚"を
徴収を拡大するJASRACに対し、最近では恐ろしいものだと感じている人も増えているようで、利用料の徴収を怪談風に描いた漫画がネット上で大きな反響を呼ぶなどしている。
福井弁護士は「SNSが流行ったことで、著作権というものがすごく身近なものになった。JASRACも公共性が今まで以上に求められていくので、権利の濫用だと思われないような運用をしていかなければならないし、わかりやすく説明していかなければならない」と指摘。
「本来、著作権収入はクリエイターを支える糧。良い曲を作って、文化が豊かになり、みんなが楽しめるというのが理想のはずなので、著作権というものに対する不信感が広がって悪循環に陥るのは誰のためにもならない。クリエイターを守るのと同時に、人々が自由に音楽を楽しむことができる、このバランスが大事だ」と訴えた。(AbemaTV/AbemaPrimeより)