「覇王降臨」という言葉が相応しい衝撃の日本デビューだった。6月18日にさいたまスーパーアリーナで開催された「K-1 WORLD GP 2017 JAPAN ~第2代スーパー・ウェルター級王座決定トーナメント~」は、ベラルーシのチンギス・アラゾフが初制覇した。
かつて魔裟斗が国内外のライバルたちと激戦を繰り広げたミドル級(-70kg)。新生K-1ではスーパー・ウェルター級という名称に変わったが、長年外国人選手の独壇場と言われ日本人としては辛酸を舐めてきた階級だけに、欧州からの未知の刺客、アラゾフも日本初上陸にもかかわらず今回のトーナメント大本命の1人に挙げられていた。
その実力は初戦のトーナメント一回戦、中島弘貴戦からベールを脱ぐ。左右のスイッチした際の打撃の威力が同等のレベルという触れ込み通り、序盤から積極的にスイッチを繰り返し強烈なローやミドルで中島に襲いかかる。中島も距離を詰めて勝負に出るが、次元の違うスピードから繰り出されるキレのあるパンチを顔面、ボディーと次々と被弾。ラウンド序盤で挽回を試みて放ったオーバーハンド気味のフックはすでに力なく、その後も少しディレイ気味で軌道の読めないハイキックやローで完全にペースを握られる。
2Rに入るとさらに勢いづいたアラゾフは、変幻自在な蹴りをみせながら中島を追み込んでいく。前のラウンドで強打をなんとか凌ぐという圧倒的不利な状況を打開すべく前にでるが、カウンター気味に顔面に飛んだ左ヒザでダウン。さらに猛攻からの左アッパーで力なくツーダウン。その強さは準決勝のジョーダン・ピケオー戦でも明らかだった。
前半こそ主導権を握ろうと積極的にピケオーが前に出るが、軽くいなすようにアラゾフがかわし、前蹴り、スイッチしてのロー、二段蹴りとさらに磨きのかかった変幻自在の蹴りを披露。さらにノーモーションで強烈な左ストレート、またいなしてはコンビネーションでラッシュぎみのワンツーとメリハリのある攻撃を見せるといつのまにか、ピケオーは鼻から出血。気がつくと鼻が曲がり完全に破壊されていた。形勢不利とみたピケオーは、さらに前にでて攻勢をかけると、狙い澄ましたようにカウンターから強烈な左ストレート。この一撃で、2分17秒「Krushに敵無し」と言われたピケオーがリングに沈んだ。
決勝戦の城戸康裕戦。この日ルーク・ウィーランとサニー・ダルベックをKOで下し勢いに乗ったベテラン城戸も、この日「ゾーンに入っていた」1人だったが、この決勝、序盤は下がり気味で冷静に試合を進める。アラゾフは、前2試合のようにディレイ気味の左ハイに、バックスピンキックとさらに新たな蹴りを引き出しから出し披露するが、対する城戸も随時一発返しては距離を長めに取るらしい闘い方をみせる。
城戸の得意の戦法になかなか制空権を奪えないアラゾフは、スイッチを繰り返しながら慎重にローや右パンチなどで距離を縮め、1R終了間際に右のパンチで城戸からややフラッシュ気味のダウンを奪いラウンドを終わらせる。
2Rに入るとさらに積極的に距離を詰めてきたアラゾフ、ロープ際で離れながら焦らす城戸。この作戦が功を奏し、ついに城戸の狙いすました左がアラゾフを捉え、この日初のダウンを奪う。しかしここで勝負にでた城戸に対しアラゾフが、近距離での打ち合いでは強さを発揮し主導権を握り始める。両者1ダウンで迎えた3R、序盤こそ城戸が左ハイ、ロー、前蹴りと勢いを見せたが、またもやピケオーを沈めた強烈な左一閃。大きなダメージを負った城戸がラウンド残り30秒で再びダウン。これが決め手となり3-0(28-25 28-25 28-25)の大差でアラゾフが勝利し第2代スーパー・ウェルター級王者に輝いた。
欧州の強豪の本格参戦という下馬評どおりの強さを発揮したアラゾフ。特に印象的なのは、「スイッチヒッター」とでも呼ぶべきか左右両方で同等の打撃と技術を発揮するテクニックだ、特に試合序盤は、多彩な蹴りを見せながら要所で強烈な左右のパンチというパターンがトーナメントを通じ際立っていた。近い距離ではめっぽう強くスピードもある、相手の攻撃をいなしながら殺す技術も一流。あくまで結果論ではあるが、どんどん前に出て勝負でた中島やピケオーの作戦は、近い距離で強さを発揮するアラゾフに対して完全に裏目にでる形となった。
内容的には圧勝で頂点に登りつめた印象だが穴が全くない訳でもない。決勝という特別なステージでの緊張感もあるが、リーチを活かし距離を取りながら慎重に試合を進めた城戸の戦術にこの新王者攻略のヒントが隠されているかもしれない。