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■新橋の立呑屋の大将「今は平気で上司の誘いを断るみたいだからね」

 ともに杯を交わすことで人間関係を深める、いわゆる"飲みニケーション"。「飲む」と「コミュニケーション」を合わせた造語で、高度経済成長期に流行。上司と部下など仕事場での関係を良好にするものとして重要視されてきた、まさに日本企業の"伝統文化"だ。

 飲みニケーションは国の命運を左右する場にも登場する。政界随一の酒豪として知られる岸田外務大臣は「日本ならではの飲みニケーションは外交の場においても大変重要な取り組みだ」と語り、ロシアのラブロフ外相と会談した際にはウォッカを飲みながら親交を深めたのだという。

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 しかし、あるブロガーは「職場の飲みニケーションという言葉は死語」「職場の飲み会で親睦が深まるのは幻想だ」と切り捨てる。先月発表された調査(日本生産性本部調べ)でも「職場の同僚・上司とは勤務時間以外に付き合いたくない」と答えた新入社員が昨年度の20.7%から今年は30.8%に増加、過去最高を記録した。

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 新橋で立呑屋を22年間営み、サラリーマンたちの姿を見てきた山本正一さんは、「俺らが若い頃は『おい 飲みいくぞ』『ちょっと今日は…』みたいなことは無かったけど、今は平気で上司の誘いを断るみたいだからね」と話す。

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 街角で、若手も含むサラリーマンたちに話を聞いてみると、

 「酔わないと話せないことがたくさんあると思う。今は飲みを断るとか言いますけど、僕はどんどん飲んでどんどんコミュニケーションを取ったほうが良いと思う」

 「自分は先輩に恵まれているからどんどん行きたいし、だからこそ後輩にもやってあげたいという良い循環になっていく」

 「人と人とのバリアを酒ではじくっていう感じ」「すべての人たち、ギスギスしたこの社会…これを潤滑にする大事なもの。飲みニケーションは人間の壁、年齢の壁をぶち壊してくれる大事な物」

 と肯定的な声もある一方、

 「仕事以外でも気を遣うのは疲れちゃう。楽しくない飲み会になんでお金を払わなきゃいけないんだろうと思う」

 「僕は自分の時間が欲しい派。一応飲みっていうのも仕事の時間だと思ってしまうので、すぐ帰りたいなと思う」

 といった否定的な意見も聞かれた。

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 男女119人に調査した結果、飲みニケーションに賛成は105人、反対は14人で、まだまだ賛成派が多いようにも見えるが、「飲みニケーションは誰のためか?」という質問に賛成派が「部下の経験のため」「チームワーク強化のため」「会社業績アップのため」となどと答えた一方、反対派は「上司・先輩のパフォーマンスの場」と、意識のギャップは大きいようだ。

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 博報堂若者研究所リーダーの原田曜平氏は「どの国もほぼ例外なく、貧しいところから経済発展が始まるとお酒とタバコの消費量が増えていく。ストレスも増えていくのでその解消法としても求めるようになるし、金銭にも余裕が出てきて、庶民でもそれらを消費することができるようになるからだ」とした上で、「ところが、低成長・ゆとりの時代になると、過度なストレスも減り価値観も多様化する。健康志向の高まりや規制強化なども加わって、酒・タバコの消費量が減ってくる。今のアラフィフ、アラフォーくらいまでは経済発展を知る世代。今のゆとり世代末期の新入社員たちは低成長世代。"職場の人間とのお食事会やお茶は重要か"というテーマではなく、議論に"酒"を持ち出した時点で、上の世代の土俵に巻き込んでしまうことになる」と指摘した。

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■「人間関係ありきで仕事を進める日本の企業文化」が背景に?

 新入社員に向けた「働くことの意識」調査結果では、「働く目的は?」との質問に対して「楽しく生活したい」と答えた割合は2015年度の37.0%から今年は42.6%と過去最高を更新した。一方で、働く目的に「自分の能力を試す」と答えた割合は2015年度の13.4%から今年は10.9%に下がり、過去最低を更新している。

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 「会社員時代は誘われても行かなかったり、途中で抜け出したりしていた。カラオケでおっさんの歌を聞くのも嫌いだった」と話すのは、元博報堂社員で、コンテクストデザイナーとして独立した高木新平氏。

 高木氏は「部下からすると不毛なんだけど、上司の立場からしたら何を考えてるのか分からないし、気持ちは分かる」と一定の理解を示しつつも「管理職の方々は"会社だけやってきた"みたいな人が多いかもしれないが、今の若い人は職場以外のコミュニティを持っているので、会社のコミュニティの価値が下がってきている。会社以外の人たちとの飲み会をどんどんしていく方が人生においては有意義だろうと思う」と若者の声を代弁。

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 高木氏は「喫煙所もそうで、そこで仲良くなった人に仕事をお願いする。能力や何かのプロフェッショナルかということよりも、仲良い人同士がゆるやかに人間関係ありきで仕事を進めているところがあるのではないか」と、飲みニケーションが無くならない日本の企業文化の独自性を指摘した。

■「日中の8時間で部下とのコミュニケーションを円滑に行えるのが本当のプロ」

 現役大学生で、ディグナ代表取締役の梅崎健理氏は「Twitterで出会った人や、色々な大人に飲み会の場で起業や仕事の仕方を教わった。僕には欠かせないもの」と話す。また、「周りの話を聞くと、一生その会社に勤めたいとは思っていないし、個人の方が大事だと言う人も多い。最近では飲み会に行かなくてもそんなにダメージはない。むしろ、管理職の人たちが寂しがっているのでは」と推測する。

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 管理職世代でもある人材育成コンサルタントの田原洋樹氏は「確かに管理職世代が寂しがっている部分はある。子どもも大きくなってきて、家庭の中で孤立感を感じている。部下にも偉そうに言えるし、一時のオアシスとして行きたがることもある」と話す。

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 そんな田原氏自身は飲みニケーション自体は好きだというが、「上司の説教や愚痴、自慢話が多く部下は疲れてしまう。上司と部下という縦のラインではなくて、横のフラットな立ち位置を気をつけるべき」として、「『職場の直属の上司と部下の飲みニケーション』に関してはメリットよりもデメリットの方が多い」と話す。

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 田原氏によると、誘いを断る上司・断る部下双方に残るしこりや、飲み会に行った人ばかりが人間関係を構築でき、職場で優遇されるなど、"行った組"と"行かなかった組"で職場が二分されてしまう可能性を指摘する。また、お小遣い40台で3万円ちょっとという統計を引いて、「おごれない、経費も使えない。割り勘にしても後味が悪い」という状況、飲み会の翌朝に疲労が残り生産性が落ちるとして、「日中、職場の8時間の中で部下とのコミュニケーションを円滑に行えるのが本当のプロのマネジメント」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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