前作「百円の恋」で数多くの映画賞を受賞した武正晴監督の新作は、プロレスとK-1を舞台にしている。
タイトルは「リングサイドストーリー」。佐藤江梨子と瑛太が主演の恋愛コメディで、主人公・カナコ(佐藤)の仕事がプロレス団体のスタッフ(後にK-1広報)なのだ。
プライドだけは無駄に高い売れない役者・ヒデオ(瑛太)を支える恋人カナコがマット界に足を踏み入れ、そのことから2人の関係も変わっていくというストーリー。カナコが最初に働くプロレス団体はWRESTLE-1(W-1)で、本人役の武藤敬司はじめ多数のレスラーが登場している。K-1の試合や記者会見の場面では卜部兄弟、城戸康裕、ゲーオ・ウィラサクレックら人気選手を見ることができる。普段、公開記者会見やアマチュア大会などが開催されるGENスポーツパレス、常設プロレス会場の千葉ブルーフィールドといった、ファンにはおなじみの施設もスクリーンに。
特に目立つのが、選手の役ではあるが本人役ではない、つまり「役者」として起用されている黒潮“イケメン”二郎と武尊だ。2人の試合をいつも見ているだけに、かつ映画やドラマでアスリートの棒読み演技にハラハラさせられることも多いだけに、何か親のような気持ちで映画を見てしまったわけだが、イケメンと武尊は予想以上のナチュラルさ。本人そのままの役だからとも言えるのだが、やはり常に「見られてナンボ」なスタンスで活動しているメリットかもしれない。また村上和成の好演も印象的だ。
瑛太が武尊とK-1のエキシビションマッチで対戦することになるというのが、映画のクライマックスにつながる展開。しかし実際のところ、瑛太のダメ男っぷりがあまりにハマりすぎていて、軽いタッチの作品なのに感情移入しにくいという意外な欠点もある。「選手が広報スタッフにそれを頼むことはないでしょ」という場面も。
ダメ男がたった1日、なけなしの勇気を振り絞るというのも、格闘技の世界では実は「なし」。その時だけ頑張るのではなく、本気のトレーニングを継続した人間でなければリングに上がることはできない。その意味で、主人公カップルはロッキーとエイドリアンになれていないのだ。
とはいえ、バーでのチケット営業やリング設営といった闘いを“支える”要素に光を当てた場面はプロレスファンにも好感触なはず。主題歌を担当するのがフラカンことフラワーカンパニーズなのもおすすめポイントだ。
そしてさらに細かいことを言えば、ロッキーっぽくトレーニングを始めた瑛太がコンバースを履いていること、実際の大会(W-1横浜文化体育館大会)でロケをしているため、遠景とはいえ大家健(ガンバレ☆プロレス代表)が写り込んでしまっていることも、マニアのツボを押してくれるのである。
文・橋本宗洋