将棋の棋士にとって、手は顔と同じくらい人の目に触れるところだ。駒を持ち、盤上に置く一連の動作を見れば、棋士の心境まで分かるだけに、将棋ファンもとても注目する。人気女流棋士の1人で、AbemaTV「花の三番勝負 白黒はっきりつけましょう」の第1局に登場する室谷由紀女流二段も「手荒れやケガはしないようにしています」と、日頃のケアには気を使う。
ことわざでは「目は口ほどに物を言う」といわれるが、将棋においては「手は口ほどに物を言う」。指す仕草1つだけ見ても大きく異なる。静かに駒を置く、駒が割れんばかりに気合を入れて叩きつける、駒を持たずにスッとすべらす、など様々だ。また、形勢による心理状態も、その仕草に出る。羽生善治竜王が、最終盤に入り指が震えることがあるのは有名だ。中学生棋士・藤井聡太四段であれば、秒読みの時間一杯まで考えて指す様子が、ファンをハラハラドキドキもさせる。室谷女流二段も「女流であればなおさら、手つきは見てほしいですね」とアピールした。
棋士の顔であり命である手だからこそ、ケアも必要だ。室谷女流二段は趣味の1つでボクシングを行うが、初心者のころにパンチを打ち損ね、利き手にあざを作ってしまったことがある。「バンテージもして、グローブもしていたんですけどね。下手だから、ちゃんと当たらなかったんです」と失敗談を披露した。「ファンの人に『先生、手が命なんだからやめてください!』って怒られちゃいましたよ」と苦笑いした。
真剣な表情で長時間指し続けるのが棋士の対局姿の一般的な様子だが、表情に出さないようにしている心情が、その手、その指先ににじみ出る。静かに優雅に指していた女流棋士が、時に強く、または乱れ気味に指した時は、心の葛藤が生まれた瞬間だ。
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