研究熱心で負けず嫌いが集まった将棋界では、時に親子の会話は直接よりも棋譜を通しての方がスムーズに行くこともある。AbemaTV「花の三番勝負 白黒はっきりつけましょう」の第2局に登場する飯野愛女流1級も、その1人だ。師匠は父でもある飯野健二七段。娘は最近「あえて盤を一緒に挟まない方が(指導を)素直に聞けるようになった」と気付き始めた。親子で棋士として厳しい道を歩むからこその、珍しくも新しい師弟関係だ。
本格的に将棋を始めるまで、飯野七段と三女・愛は仲のいい親子だった。ところが、将棋の道を志し、師弟となってからは関係が一変。「怒られることも、衝突することも増えました」と、複雑な心境になった。優しいお父さんが、師匠としてはとても厳しい。なぜそこまで怒られるのか。悩む乙女心に1つの救いを与えたのが、棋譜だった。
飯野家の自宅は将棋道場。飯野女流1級も、ここで将棋の研究を行っている。ある日、自分の対局の棋譜を机の上に置いていた。すると飯野女流1級がいない間に、飯野七段が盤に駒を並べ、検討してくれたことがあった。「アドバイスをしてくれたことがあって、最近は増えてきましたね」と、うれしそうに語り出した。負けず嫌いの性格もあってか、盤を挟みながら一緒に棋譜を並べると「私がだんだん言うことを聞かなくなってしまうので」と苦笑いした。「あえて盤を一緒に挟まないで、ふとした瞬間に『将棋、見たけど』と言われた方が、素直に聞けるんです」。棋譜さえあれば、棋士は会話ができるのだ。
最初は置き忘れた棋譜を偶然見てもらったことから始まったが「置いておくと見てくれるので。最近は意図的です」と、いたずらっぽく笑った。プロ棋士ともなれば、棋譜さえあればどんな思いで指していたかが分かる。ちょっとした「交換日記」のようになっている。会心譜が出来上がった時、弟子で娘の愛は師匠の父・健二に見てもらおうと、その棋譜を笑顔でわざと置き忘れる。
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