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 日本のヒップホップ黎明期からシーンの発展に尽力、格闘技のリングアナウンサーなど多くの顔を持つUZIこと許斐氏大容疑者(43)の逮捕。大麻所持の疑いによる突然の逮捕に、渋谷の街の若者からは「ヒップホップをやっている人が大麻をやっているという印象が付いてしまうと思う。音楽関係者はやらないでほしい」「番組とかやっているのなら、バレないようにした方がよかったんじゃないか」といった意見が聞かれた。

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 17日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、大麻とカルチャー、そして取り締まりの問題について考えた。

 まず、日本で大麻は「大麻取締法」で定められ、「輸出入・栽培の罪」は「7年以下の懲役」、「単純所持の罪」は「5年以下の懲役」となっている。営利目的だとさらに重い。これに対して、「覚せい剤取締法」ではそれぞれ「1年以上の懲役」「10年以下の懲役」と、刑事罰は重くなっている。

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 薬物事件にも詳しい高橋裕樹弁護士によると、「覚せい剤の方が依存性も強く、使用時の高揚感や幻覚などによって犯罪に至る可能性も高い。これに比べ、大麻はリラックスや鎮痛の作用があり、使用後の犯罪には結びつきにくいため」と説明する。

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 また、大麻は栽培・所持・譲渡などは刑事罰の対象となっているが、単純に使用しただけの場合はそうではない。「日本の伝統の中で、大麻や麻は生活の中で馴染みのあるものだった。神社のしめ縄も麻でできているし、七味唐辛子には種が入っている。また、野焼きの際に燃えた麻の煙を吸ってしまった場合など、使用については線引きが難しい。ただ、注意しなければならないのは、使用する時にはどのみち所持しているので、証拠の観点から体内から大麻の成分が出てきただけでは処罰されない、というだけ」(高橋弁護士)

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 こうした状況から、タバコや覚せい剤よりも有害性や中毒性が低いとして、若者が軽い気持ちで手を染めてしまいがちだという。元厚生労働省麻薬取締官の高濱良次氏は「一回くらいなら、という気持ちで使用する人もいる。しかし、そこから覚せい剤に移行していくケースもあり、ゲートウェイ・ドラッグとも言われている。また、低いとはいえ依存性もあり、昭和50年代ごろからは暴力団も売るようになっているため、規制の対象となっている」と話す。

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 「海外ではOKだから」というイメージも注意が必要だ。高橋弁護士によれば、「国外であっても大麻取締法の処罰対象になる。『海外で大麻吸ってやったぜ』とインスタにあげてしまったら所持の証拠を流すことになる。そうなれば国内に帰ってきて立件される可能性がある」と説明した。

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 また、UZI容疑者のケースについて高濱氏は「大麻タバコを作った場合、1本あたり0.5gぐらいなので、今回所持していた600gなら1200本分という相当な量になる。もし売買する目的で所持していたとなると罪が重くなるし、自分で栽培した可能性もある」と推測した。

■ヒップホップだけが問題ではない

 敷居が低いことから、クラブカルチャーを通じて、若者が手を出しやすいという大麻。元売人のAさんも「売買の半分はクラブで行っていた」と証言。渋谷でフリースタイル・ラップを楽しんでいたある若者は「吸っている人もいる。誘われることもあるが、自分は必要なコンテンツだと思っていないので。別に興味がないし、必要としていない気分ですね」と話した。

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 しかし、アメリカ出身のパックンは「アメリカではヒップホッパーは薬物をやっていて当然、という感覚なので、誰かが逮捕されても驚かない。クリーンな時代もあったが、違法組織に入っていることや犯罪を自慢するような歌詞のある『ギャングスター・ラップ』が現れ、90年代には半数近い曲に薬物関連の言葉が登場していた時期もある。今も処方された薬についての歌詞は少なくない。ただ、アメリカではロック、ジャズ、ポップ、アイドルといったジャンルでも大麻で逮捕される人もいる。ビーチ・ボーイズのコンサートでも吸ってない人はいないくらいだった(笑)。やはりヒップホップに対する偏見や、人種差別の問題もある」と話す。

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 また、「アメリカにはラップバトルのように日常的にジョークでけなし合うような文化があり、それを発展させてきた。日本のヒップホップにはクリーンなイメージがあるし、アメリカのスタイルや言葉を取り入れて、薬物を連想させるようなリリックを使っていただけではないのか」と疑問を呈した。

 高橋弁護士も「クラブの中で売買されるということは確かにあるが、僕の感覚では、ヒップホップだけではなくて、他のクラブミュージック、トランスが流行っている頃に『キメて入るんだ』というような話を聞いたこともある」と指摘。高濱氏も「大麻に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)という幻覚作用の強い成分によって、音やリズム感などの刺激に対して敏感に反応するようになる。そのため、昔から大麻愛好者の中には音楽家や演奏家が多かった。検挙する際にも、音楽関係のイベントに潜入していた。私が若い頃はディスコだったが、それが時代と共に野外コンサートやロックのイベントになっていく」として、特定の音楽ジャンルとだけ結びついているわけではないとの見方を示した。

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 ジャーナリストの堀潤氏は「日本の音楽シーンの中には、マリファナを楽しみながら新しい芸術を生み出そうとするヒッピー文化に強い憧れもあったと思う。かつて六本木のクラブが薬物で摘発されたこともあり、Zeebraさんたちが健全なかたちでクラブカルチャーやヒップホップを盛り上げていこうと頑張ってきた。ただ、たとえばビジュアル系バンドの人からはあまり薬物の話が出ない一方、ヒップホップとは近いというイメージが出来上がってしまった」と話す。

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 スマートニュースの松浦茂樹氏は「KICK THE CAN CREWが紅白に出場したが、日本ではメジャーシーン、マスから見れば狭い範囲のものなので、まだ良くわからない、危ないのかなと偏見が残っている」と指摘した。

■アメリカで進む大麻合法化

 パックンと同じくアメリカ出身のREINAが「日本とは違い、アメリカのヒップホップシーンの中では、ネガティブなものだったドラッグをオープンに使うようになり、そこからマリファナ・カルチャーも変わってきて、"大麻って悪いものじゃないのではないか"という意識も出てきた」と指摘するとおり、アメリカでは大麻合法化の動きが進んでいる。実際、住民たちの運動の結果、今月からカリフォルニア州では大麻が合法化されている。

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 現地で取材してきた堀氏は「マリファナサミット」が行われ、自動販売機など、様々なビジネスモデルが提示されていたという。

 「自生している大麻は、お金を払わなくても手に入れることができる嗜好品だった。ところが、儲ける上で大麻が邪魔なタバコ会社がロビー活動をして、違法なものにしてしまったという主張や、民主主義的な動きで権利を取り戻そうという主張がラジオでも流れていた」と話し、「日本では戦後の占領期に大麻取締法が出来たが、ここまでがんじがらめにされる必要があったのかという見方もできるだろう」と指摘する。

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 元日から大麻が合法になったカリフォルニア在住の町山智浩氏によると合法化には3つの理由があるという。1つは非合法の大麻業者がメキシコから持ち込むケースが多かったため、国内生産を認めればその供給源を断つことができること。2つ目は逮捕・収監の理由として最も多い大麻を合法化すれば、司法・警察・刑務所のコスト削減になること。最後の理由はビジネスチャンスと見ているからだと話す。

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 また、町山氏は「アメリカのマリファナ問題には人種問題も絡んでいる」と指摘する。「刑務所に収監されている人の多くは黒人で、ほとんどが大麻所持の罪。1980年代以降、大麻の取り締まりを路上でするようになり、黒人を見れば片っ端から職質して、持っていたら刑務所にぶち込むということをしてきた。その結果、マリファナという言葉に黒人やメキシコ人といったイメージがついてしまったため、マリファナという呼び方をやめようという動きも出ている」と話した。

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 パックンの故郷、コロラド州では大麻が解禁されてから数年が経ち、21歳以上なら誰でも購入できる状況だ。しかし、決められた場所でなければ使用できず、使用後はアルコール同様、自動車の運転が禁じられているため、解禁前後で使用率は変わっていないという調査結果も出ていると町山氏は話す。「実は解禁派は共和党・右派で、禁止を主張していたのは民主党・左派だった」。パックンも「僕はアメリカにいた頃、合法化賛成派だった」として、「必ずしもゲートウェイドラッグとは言えないのではないか。その意味では、酒もたばこも入り口だと言っていいのではないか、という意見もある」とした。

 今回の問題をきっかけに、大麻とカルチャー、そして取り締まりの問題について、冷静に議論することが必要かもしれない。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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