
コインチェック事件や価格の乱高下を受け、仮想通貨への懐疑的な見方や規制を求める意見が広がっている。一方、仮想通貨を支える根幹技術である「ブロックチェーン」そのものには問題はなく、むしろこれからの私たちの生活を大きく変えるとさえ言われている。2日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、日銀出身で金融機関の決済システムに詳しい中島真志・麗澤大学教授に話を聞いた。

私たちは普段、"安心""信用"が確保された銀行などの金融機関を通じてお金のやり取りをしているが、仮想通貨の取引においては、金融機関に当たるものは存在せず、記録の管理・保管の仕組みも異なる。それが、すべてをフルオープンにして取引記録を公開、参加者が確認できるようにしているブロックチェーンだ。
中島氏は「仮想通貨はデジタルデータなので、コピーされてしまっては困る。そこで"ブロック"の形にして、二重使用ができないようにし、安全性を担保している」と説明する。

つまり、「誰にいくら送信した」「何を買った」などのデータの束の圧縮値を入れた"ブロック"を前のブロックに鍵をかけながらチェーンで新たに繋いでいくイメージで、そこで取引成立となる。「前のブロックのデータ圧縮値(ハッシュ値)が次のブロックにも使われる、少しでもデータを変えると、次のブロック、その次のブロックと、連鎖的に影響を与えることになるため、データの改ざんが困難になる」。このブロックを繋げる作業を、仮想通貨の分野では"マイニング"と呼んでいるのだ。
また、銀行などの従来型のデータ管理手法では、中央サーバーやそのバックアップサーバーを用いた集中管理が基本で、セキュリティ対策なども含む投資・管理費用が膨大になる。一方、中央集権的ではなく、分散型の管理を基本思想とするブロックチェーンを用いたネットワーク管理では、データが複数存在するためにバックアップも不要で、データの改ざんが極めて難しくなるのだ。

「中央集権的な考えが嫌いだったサトシ・ナカモトという人が考えた技術だが、彼はみんなが協力して分散的に取引をしていくことを考えた。つまり、ブロックチェーンをネットワーク上の全員が同じデータを同時に持っている状態だ。逆に言えば、そういう分散的な思想に基づいてできているため、中央の管理者もいらず、コインチェック問題では盗難を止める人がいなかった」。
■"まるでレース" マイニングの実態
ブロックチェーンにおいて取引のブロックを成立させる"マイニング"は、文字通り新たな仮想通貨を採掘する作業にあたり、ビットコインの場合、10分あたり12.5ビットコインが報酬として採掘され続けている。しかし、この報酬を得るためには大変複雑で膨大な計算が必要とされる。仮想通貨の価格が高騰する中、このインセンティブを目当てに高性能のコンピュータを用意してマイニング作業に挑戦する人が増えているのだ。
「まるでレースのようになっているが、実は7割が中国でマイニングされている。中国の山奥の広大な敷地にコンピュータをずらっと並べて、24時間ずっと回している。ちょっとやそっとの規模のコンピュータでは全然太刀打ちできない」。

都内の自宅でイーサリアムやZcash(ジーキャッシュ)のマイニングを行うMさん(仮名)は、パソコンの処理能力向上のため、100万円ほどを費やした。「月々の電気代はピーク時で8万円くらい。収益は電気代の2~3倍くらい。そうでないときは電気代が支払えるか支払えないか」と話す。元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏も仮想通貨に対しては懐疑的な見方を示しているが、マイニングのための技術がスーパーコンピュータの開発の発展に寄与しているとも言えるとした。
■エストニアでは生活になくてはならないものに
すでにブロックチェーンは様々な分野に応用されている。ブロックチェーン1.0が仮想通貨、ブロックチェーン2.0が金融分野(国際送金、証券決済など)、そしてブロックチェーン3.0が生活分野(医療情報、土地登記、投票管理など)だと言われている。

「従来は中央に証券決済機関のデータベースがあって、その下に証券会社がぶら下がっているような形で取引をしていたが、証券会社がそれぞれ分散台帳を持つことになる。株の代わりにAmazonコインとかAppleコインみたいなものをリアルタイムでやり取りして、証券会社と証券会社が株の取引をするということができるようになると考えられている」。

海外送金の場合も、銀行を通じたSWIFT(国際送金のネットワーク)を利用すると2~4日かかり、複数の金融機関を経由するため、手数料も安くはない。しかしブロックチェーンを活用すれば、振込人から受取人までが一直線でリアルタイムに送金できるようになるのだ。
「この国際送金の仕組みはクローズドなネットワークでやっているので、取引を承認する仕組みも軽く、数秒で送金できると言われている。手数料も数分の1から10分の1になる。海外では100行くらいが手を挙げ、取り組みを始めている。国内の金融機関同士でもブロックチェーンの技術での送金をしようとしていて早ければ上半期中に数行が始める」。

また、バルト三国の一つ、エストニアでは電子政府化が進んでおり、ブロックチェーンをセキュリティに活用した国民IDのシステムが運用されている。IDカードが身分証や健康保険証、運転免許証やキャッシュカード、公共交通機関のチケットの代わりとして利用されている。さらに納税や選挙、土地登記などもネット上で可能となるなど、実に2500もの電子サービスが受けられ、ブロックチェーンの技術が生活になくてはならないものとなっているのだ。

コインチェックの事件によって冷水を浴びせられた格好の仮想通貨市場。しかし、それを支えるブロックチェーンの技術への信頼は毀損していない。今後の発展に注目だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)