どんな競技の世界でも「絶対王者」と名がつく人には、セットで「威圧感」という言葉がよく使われる。ただ、将棋界の絶対王者・羽生善治竜王には、その言葉が当てはまらない。少年時代からしのぎを削ってきたライバル森内俊之九段は「羽生さんの場合はすごく自然体。涼しい顔して勝っていく」と表現した。威圧感ではない、別の凄みについて話を聞いた。
 400年以上の歴史を誇るとされる将棋の世界。これまで出てきた歴史的な名棋士たちは、相手に圧倒するほどの存在感、威圧感を持つ者が多かった。ところが史上初の永世七冠に、将棋界初の国民栄養賞を受賞した羽生竜王はタイプが違う。2002年から2015年まで、羽生竜王と2人で名人の座を持ち続けた森内九段は「羽生さんは相手に力を出させながら勝っていくのが特徴。将棋や考え方に柔らかさがある。常に新しい可能性を追求している探究心も感じます」と説明した。相手にしてみれば、プレッシャーに負けて力を発揮できずに負けるより、全部を出し切ったのにさらに上を行かれて負けた方が、「これでもダメか…」と思う分、結果的にはダメージが大きい。