「行司が力士と同じように相撲部屋に所属しているのっておかしくない? 自分の部屋の力士をえこ贔屓しないの?」。相撲をあまり見ない人からそう聞かれることがよくあるが、行司の世界でそれはありえない。

 なぜなら、行司には行司としての絶対的なプライドがあるのは当たり前として、大相撲のルール上、行司には勝負判定の最終決定権がないからだ。

 相撲をよく見ていればすぐに分かる。行司はどんなに判断が難しい場合でも、東西いずれかの力士に軍配を上げて勝負の判定をしなくてはならない。でも、その判定に異議を唱える“物言い”をつけ、最終的に判断を下すのは土俵下に座る5人の審判委員。判断基準にはビデオ再生も用いられる。つまり、行司には勝負の最終的決定権がない。

 たとえば反則技の判定にもそれは表れる。髷を故意に引っ張ったり、お腹を蹴飛ばして転ばせても、行司の判定はあくまでも勝負に勝った方に軍配を上げ、反則は見ない。当然、審判から“物言い”が付いて最終判断が下され、反則を犯した方が負けるという仕組みだ。そして、これはルールの一環なので行司の見間違え=“行司差し違え”にはならない。

 ちなみに“行司差し違え”とは、誤って負けた力士に行司が軍配を上げて審判委員から物言いがつき、協議の結果で行司の判定が覆されること。こういうことが続くと行司も降格する。

 そう、行司にも力士同様に番付がある。序ノ口~立行司(たてぎょうじ)の8ランクに分けられ、全員がしこ名のように木村~か、式守~と名乗っていて、決して全員が親戚ってわけじゃありません!

 そのうちの最高位、立行司の木村庄之助や式守伊之助の場合では、たった1回でも差し違えをしたら、その日のうちに理事長に「進退伺い」を問わなければならない。もちろん、そう簡単に辞めさせられることなんてないけど、でも、土俵をさばくとはそれほど真剣で大変なことというわけ。ちなみに立行司は短刀を腰に差していて、差し違えがあったら責任を取って切腹する覚悟があることを示している。

 ここまで言えば、えこ贔屓なんて絶対にありえないこと、納得してもらえるだろう。

 行司は大相撲界独特の役割を担う、いわば取組に欠かせない進行役。勝負がフェアに行われるように様々な声を掛け、取組を成立させる。中継を見ていれば、「手をおろして」、「見おうて」、「まだまだ」、「時間です」、「待った」、「はっけよい」、「のこった」と様々な掛け声が土俵から聞こえる。

 行司には勝負の最終決定権はなくても、あの狭い土俵の中に大きな身体の力士たちと共に入り、常に動きながら瞬時に勝ち負けの判定を下す。

 何より“立ち合い”という力士が呼吸を合わせて立って、相手にぶつかっていく、大相撲独特の勝負スタートを成立させるため、2人の力士を同時に良く見ていく。いつ2人が立っても対応できるよう、絶対の準備をする。2人の力士と行司だけの、息もつけない瞬間がそこにはある。

 行司も力士と同じよう、土俵の上で戦っているように思う。大相撲の勝負の面白さは、力士だけでなく行司も含めた土俵の3人にある、と言ってもいいほどだ。

 ちなみに行司の鮮やかな衣装は、室町時代の武士の装束をモチーフとした直垂(ひたたれ)と烏帽子(えぼし)。幕下以下の行司は木綿の直垂に裸足、十両以上になると夏は紗や麻、冬は絹の直垂を着用して足には足袋を履くと決まっているものの、直垂の色などは自由。相撲協会が用意するユニフォームというわけではなく、各自があつらえるんだそう。【和田静香】

(C)AbemaTV

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