27日夜、南北首脳会談、そして共同宣言署名式に続いて晩餐会が行われ、北朝鮮側からは金正恩委員長の妻、李雪主夫人も参加、終始和やかな雰囲気で進行。両首脳にはここでも常に笑顔が浮かんでいた。
晩餐会後は「平和の家」をスクリーンにしたプロジェクション・マッピングを揃って鑑賞。最後まで「南北融和」が強調された演出の中、文在寅大統領に見送られ、金委員長は板門店を後にした。
AbemaTV『AbemaPrime』に出演した新潟県立大学の浅羽祐樹教授は「朝からすごいことが起きたというイメージになっているが、中身が、どういう順序で詰められたか鍵だ。韓民族向けのPR=パブリック・リレーションズには尽力したと思うし、成功したというアピールにもなっているが、最大の課題は非核化だ。一つ一つの出来事はエピソードとして非常に面白いが、事の軽重を見誤ってはいけない。我々日本人が韓国の人々のように盛り上がる必要はない」と一日の動きを総括する。
今回の共同宣言「板門店宣言」について浅羽氏は「最後の承認のところで非核化が盛り込まれたのかもしれないが、2007年の首脳会談時の焼き増しの部分もあるだろうし、事前に文書化はほぼ済んでいたと見るべき」との見方を示す。
その中で注目される非核化については「"南と北は完全な非核化を通じて核なき朝鮮半島の実現に共同で取り込むことを確認した"という表現になっていて、これまで国際社会が求めてきた"完全で、検証可能で、不可逆的な核廃絶ないし非核化"のうち2つしか入っていない。つまり、目標設定とその過程が抜け落ちている。過去2回の首脳会談や6者会談で結ばれた合意も、期限を切っていなかったためにことごとく破綻してきた」と説明した。
浅羽氏が"2007年の焼き増し"と表現するように、今回の共同宣言には、核問題、朝鮮戦争終結、経済問題について2000年、2007年の文書に似通った表現が複数みられる。いずれも韓国やアメリカの政権交代などにより、頓挫してきた。しかし浅羽氏は「文大統領はあと4年任期があるし、支持率も高いので推進はしやすい。経済交流についても、金委員長としては様々なプロジェクトをもう一度という意図がある」とした。
その上で、宣言が非核化、平和体制、南北融和の順に触れられるべきところが、実際の順序が逆になっていたことに注目。「やはり非核化の最後のところは米朝首脳会談で詰めるしかない、そこに繋げるために両国の間に立って来た文大統領はできる限りのことをやったということだと思う。実際に核実験とミサイル発射を中断させるというところまではやった。もっと言えば、トランプ大統領が早速評価する内容のツイートをしているので、アメリカとの間でそこまでは詰めていたんだろうと思う。次はアメリカが米朝首脳会談で期限をいかに切れるか。いきなりは無理だが、中間選挙があり、2期目もどうなるかわからないトランプ大統領としては10年も待てない。金委員長に"違う大統領に変われば逃げ切れると"思わせてもいけない」。
一方、日本にとって最重要課題の一つ、拉致問題は共同宣言から漏れていた。このことについて浅羽氏は「文大統領は韓国人の拉致問題を取り上げていないと批判されているので、そこに日本人の拉致問題が盛り込まれるのは難しかったのではないか。安倍総理が文大統領から説明を受けることになっているので、そこで具体的な内容や金委員長の反応が見えてくると思う」とした。
さらに、在韓米軍に関しても宣言で触れられなかったことについて「"核なき朝鮮半島"の核が在韓米軍やグアムの戦略爆撃機をも含むのであれば、米韓同盟、日米同盟にも影響する。米朝首脳会談でアメリカに届くICBMが全廃されたとしても、韓国や日本に届く短距離、準短距離ミサイルはどうなるのか。すでに核弾頭が装着可能で連射も可能になっているし、海上に展開しているSM3と東京のPAC3でも防衛しきれない可能性があり、日韓にとっては脅威だ。今後うまく非核化とICBMの問題が解決されたとしても、日本には拉致と、この課題が残ると真剣に考えなければいけない」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)