2016年初場所で優勝。しかし、その1年後に大関から陥落した琴奨菊は、今日も土俵に上がっている。

 琴奨菊は福岡県柳川市生まれで、本名は菊次一弘。今年34歳。9歳で祖父・一男さんの勧めで相撲を始め、一男さんは自宅に土俵を作ったり、タイヤに紐を付けたトレーニング器具を作ったりと、熱心に一弘少年を指導した。

 祖父の期待を一身に背負った一弘少年は、徳義塾中学3年で中学生横綱に。2002年に初土俵を踏み、2005年には新入幕。2011年に大関に昇進した。

 琴奨菊といえば、ギュ~ンと背中をそらせる「琴バウワー」も有名だが(最近は封印中)、なんといっても「がぶり寄り」がいい。

 「がぶり寄り」は、相手のまわしを両手でしっかり取って自分に引きつけ、しゃにむに揺するようにして寄って勝つ。琴奨菊の場合はまわしに手が届かずとも抱え込んだままがぶってがぶって押し出していく威力が並はずれて大きく、相撲ファンを魅了する。

 でも最近は残念ながら、そのパワーを上手く生かせないことも増えた。三月場所は6勝9敗で負け越し。五月場所は番付を2つ下げ、前頭5枚目となる。それでも琴奨菊は決してあきらめたりしないとAbemaTVのインタビューで語ってくれた。

 「3月は課題が多い場所だったので、五月場所は切り替えていきたい。自分は密着しないと勝つパターンに行かないので、そういうところをもっと集中してやります。あとは気持ちの持っていき方です。いい相撲を取るには気持ちが大事。今しっかり稽古を積んでいますので、主役になれるよう、がんばります」

 2017年初場所で大関陥落が決まったときには引退の声も聞かれた。でも琴奨菊自身はそんなつもりはまったくなかったとか。

 「引退するんじゃないか?という報道もありましたが、引退は全く考えなかったですね。失うものもあったけど、それ以上に得るものがたくさんあります。今も変わらず応援してくれるファンの方々がいるので、気持ちを届けられるよう、がんばりたいです」

 昨年の九州場所十三日目、千代の国戦で攻防を見せた後に組み合ったまま土俵中央でピタリと動きが止まると、「琴奨菊~!」と声があがり、たちまち場内が「琴奨菊~!」の声であふれ、その声に押されるようにして左すくい投げ、土俵中央で千代の国を裏返しに投げた。場内大拍手に沸き、胸が熱くなった。琴奨菊、今も十分にファンを感動させる相撲が取れる関取だ。がぶって、がぶって、前へ進んで欲しい。

 そんな琴奨菊には共に再び上を目指すライバルであり、親友の力士がいる。

 「豊ノ島は小さい時から知っているし、幕内で何十回も戦っていてすべてを知る仲。今、豊ノ島は怪我で苦しんでいるけど『もう一回対戦するから待ってて』と言われたのが心にあって、自分も負けないよう一生懸命やりたい。今が自分は一番強いと思うんで、頑張っていきます」

 元・関脇の豊ノ島は五月場所、幕下十四枚目。2人がまた幕内で熱い闘いを繰り広げるのを期待して待ちたい。天国で見守る祖父の一男さんも、それを願っているに違いない。【和田静香】

(C)AbemaTV

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