好角家を唸らせる相撲センス、そして女性人気もあわせ持った遠藤(追手風)が、ついに新三役として五月場所を迎える。「ようやく」と言っていいだろう。遠藤本人にとっても「特別な思い」があることを、春巡業の取材を通して感じることができた。
日大相撲部在籍時は、全日本相撲選手権大会(通称アマチュア横綱)、国体相撲青年個人の部A優勝(通称国体横綱)と2つのタイトルを獲得し、史上2人目となる幕下十枚目格付出でプロの初土俵を踏んだ遠藤。
所要1場所での関取昇進を期待された平成25年三月場所の三番相撲(六日目)では、祥鳳との対戦でプロ初黒星、続く四番相撲でも魁に敗れ、デビュー場所を5勝2敗の成績で終えた。東幕下三枚目で迎えた翌場所も5勝2敗とし、所要2場所で新十両昇進。新十両で迎えた七月場所では14勝1敗。平成24年一月場所の千代大龍(九重)以来となる新十両での優勝を果たした。新十両での14勝は史上2人目で昭和25年九月場所の米川(後の横綱・朝潮)以来63年ぶり、また史上4人目となる十両1場所通過。幕下付出からは史上最速の所要3場所での新入幕というスピード記録を数々打ち立てた。
瞬く間に番付を駆け上がり、大銀杏はおろかチョンマゲも結えないザンバラ力士の奮闘に場内は大いに沸いた。さらに端正な顔立ちも相まって女性ファンも多数獲得。その人気は、相撲協会が企画した遠藤と隠岐の海(八角)によるお姫様抱っこイベントにおいて、定員6人に対し8132人の応募があったほどだ。
しかし、遠藤が美しいのは四股やルックスだけではない。本当に注目すべきは、その相撲内容である。どう攻めれば相手を追い詰めることができるのかを熟知しているような土俵上の立ち回り。まるで詰将棋のような相撲だ。徹底した相撲理論を頭に叩き込み、自由自在に自分の体を操ることのできるフィジカルこそ、遠藤の相撲の魅力であり、本来の美しさなのだ。
「取材陣を一切シャットアウトして臨んだ春巡業」
そんな遠藤の春巡業での様子は、普段のそれとは違っていた。取材先である巡業の開催地へ到着すると、先着した他媒体の記者陣が困り果てていた。話を聞くと、三月場所での成績を見る限り遠藤の新三役は濃厚。相撲記者とすれば新三役に向けてのコメントや、この巡業でどのように自分自身を仕上げていくか? というコメントは「喉から手が出るほど」欲しいところだが、遠藤はタイミングを合わせないように取材を受けていなかった。事実、私もこの春巡業で遠藤からのコメント取りを試みたが叶わなかった。
遠藤に関しては、以前、スピード出世に次ぐスピード出世で取材が殺到し、「どのような質問に対して何を答えているのか自分でもわからなくなる」ほど、メディア対応に疲れ切っているという話を耳にしたこともあった。しかし、今回の理由はそれだけではなかった。
「思った以上に遅かった新三役」
ザンバラ頭で番付を駆け上がり、気が付けば幕内上位。しかし上位の圧力、さらには平成27年三月場所五日目の松鳳山(二所ノ関)戦で勝利した際に負った左膝半月板損傷、前十字靭帯損傷の怪我で破竹の勢いはストップ。その後は右足首の捻挫、左足関節靭帯損傷とケガに泣かされることが多くなった。その間、遠藤と歳が近く、学生相撲でしのぎを削った御嶽海(出羽海)、正代(時津風)らが先に三役に上がり、完全にライバルに先を越された格好だ。
遠藤からすれば、新三役昇進には「今さら感」があったはずだ。新三役の会見を開いた際には、「会見をやらなきゃいけないですかね」と、近しい相撲記者に漏らしていたという。新三役の会見は結果的に行われたが「スキを作らないため」に淡々と話しを続けていた。ケガと向き合った3年間。耐え忍び前だけを見てひたすら積み上げてきた。最高の笑顔は幕内最高優勝を果たすそのときまでとってあるのではないかと思う。今はまだ目標を見据え、忍耐の途中。遠藤が見ている景色は、いったいどんな景色だろうか。
【相撲情報誌TSUNA編集長 竹内一馬】
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