幾度のケガを乗り越え、新入幕から約4年半。悲願の新三役の座を手に入れた遠藤に笑顔はなかった。師匠の追手風親方によれば、酒も飲まず、遊びにも行かず、稽古、治療、トレーニングの繰り返しで夜はほとんど出歩かず、逆に師匠が心配するほどだという。
「まだ忍んでいます。お先真っ暗と思っている」。新三役昇進会見という晴れの舞台にもかかわらず、当人はそんな言葉で心境を表現した。
史上最速の入門から所要3場所で幕内昇進を決めると新入幕場所も快進撃は止まらず、十二日目には2ケタ白星にリーチが懸かる9勝目。あと1勝すれば三賞もほぼ確実の情勢だったが、左足首の捻挫で十四日目から休場となってしまった。場所後の秋巡業には出場したものの患部をさらに悪化させた影響からか、翌場所は入門以来、初の負け越しを喫した。
翌2014年は初の三賞となる敢闘賞受賞、さらには初金星を獲得するなど、大きな飛躍を遂げて三役目前まで迫った。しかし、2015年春場所五日目、松鳳山を突き落とした際に左膝の半月板と前十字靭帯を損傷するという重傷に見舞われ、相撲人生は暗転する。
一時は手術も検討されたが結局、回避。翌場所から出場したが、患部を庇いながらの相撲は右足首を痛めるなど、他の部位のケガを誘発させることになり、以後、遠藤は相手と戦う以前にケガとの戦いを強いられることになる。
もともと報道陣に対して多くを語るタイプではなかったが、口数がさらに少なくなったのもこのころからだった。何度も新三役のチャンスが訪れてはケガを悪化させることの繰り返し。悲願を達成できたのは、ケガとうまく付き合えるようになったことが大きい。
しかし、試練は終わらなかった。新三役場所の序盤を3勝2敗と白星先行で乗り切った矢先、六日目の御嶽海戦で右上腕を負傷。「右上腕二頭筋遠位部断裂」で翌日から休場を余儀なくされた。手術となれば復帰までに約半年かかると見られていたが、十日目から再出場に踏み切った。しかもいきなり横綱白鵬戦。右上手が生命線の遠藤にとって、今回のダメージは計り知れない。今はケガが悪化しないことを祈るのみだ。当代きっての人気力士の「忍ぶ日々」は終わる気配すら見えてこない。
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