
「この髪型はハゲているところを必死に隠そうとしているんだ。見た目にも悪くないだろう。必死に頑張っているんだ。みんな必死に頑張っているんだよ」。支援者たちを前にそう話していたトランプ大統領にも朗報かもしれない。

4日、理化学研究所と医療ベンチャー企業のオーガンテクノロジーズは、髪を作る器官「毛包」を大量に生産することに成功、2020年に実用化を目指すと発表した。正常な部分の頭皮を一部切り取り、そこから健康な「毛包」を取り出し、3種類の細胞を取り出して培養。再び組み合わせて「毛包」の原基、つまり"種"を作る。これを髪が生えてない部分へピンセットで移植すると、髪が生えてくるという仕組みだ。理研の辻孝氏のチームによるマウスを用いた実験映像を見ると、移植した部分に毛が生えているのがわかる。

脱毛症にはいくつかの種類がある。メカニズムが分かっているのは患者数が日本全国に約1800万人いるといわれる男性型脱毛症(AGA)と薬剤性脱毛だ一方、解明されていないのが患者数約600万人の女性の休止期脱毛、患者数約12~24万人の円形脱毛症、患者数約1200人の限局性欠毛症(先天性無毛症)、そして患者数約101万人の事故・皮膚の障害だ。

理研によると、20日間で髪の毛1万本分の毛包を作ることが可能で、来月にもマウスを使って安全性を確かめる実験を行い、来年にはAGAの男性を対象とした臨床研究を始める。さらに男性型脱毛症での治療法が確立した後は、女性型脱毛症、先天性脱毛症などの治療法の開発も進めるとしている。
■街の声は「ノーベル賞ものだ」「50万くらいなら出す」
そもそも薄毛に関する治療は、紀元前の古代エジプトから行われていたという歴史もある。近年まで様々な対策や商品が登場してきた。昔から効果があると言われてきたのが「ワカメ」だ。海藻類に含まれるミネラルが毛髪の成分となることから、発毛や育毛にいいと聞いたことのある人も多いのではないだろうか。しかし実際はワカメの効能は根拠に乏しいとされている。その他にもブラシで頭皮を叩き育毛や発毛を促す方法や中国の育毛剤が流行するなどしたが、どれも根本的な解決には至らなかった。
現行の薄毛治療法には、薬品治療と自家単毛包植毛術とがあり、前者は毛髪を元気にするものだが、服用を止めると効果が消失するだけでなく、残っている毛を増やすことは不可能だった。後者は毛根を傷付けないようにして後頭部から1本ずつ"引っ越し"させるものだが、植毛した数以上に髪の毛が増えることはない。今回の技術の画期的な点は、その解消にある。

辻氏は昨年4月、AbemaTV『AbemaPrime』の取材に対し「今の植毛治療のように、後頭部から頭頂部へ毛包を移すだけだと毛髪は増えない。細胞培養ができれば本数を増やすことができる。いったん移植した毛包の幹細胞はそこで生涯にわたって格納されるので、髪の毛が抜けて生えてを繰り返す」と説明、「2020年には一般に治療いただけるように再生医療の実現を果たしたい」と話していた。今回、その研究が実を結んだ格好だ。

このニュースに街では「髪の毛が増えるのを発明すれば多分ノーベル賞ものだ。風邪薬と毛生え薬はノーベル賞と昔からよく言われている」「髪の毛が薄いから非常に期待する」「実験台になって失敗するよりはこのままがいいかな」「どうかな。信じられない。だってもうないもん。毛根戻らないでしょ」と反応は様々。また、理研は治療費に関しては未定としているが、「5万だの10万だのではないだろう…まあ出して5万」「10万くらい。髪の毛がふさふさするんだったら、もっと出す人はいるのではないか」「50万くらい」「結婚してたら出さない」といった答えが返ってきた。

■「簡単にマネをすることはできない」
5日放送の『AbemaPrime』に出演したオーガンテクノロジーズ代表取締役の杉村泰宏氏は「皆さん深い悩みを持たれている。私も薄毛なので共感できる。深刻な方も含めて区別することなく解決したいと思ってきた。その第1段階として、メカニズムの分かっているものの解決を目指し、研究を進めてきた。それが今回の男性型脱毛症(AGA)の治療につながる技術だ。既存の治療法では、毛髪の絶対数を増やすことができなかった。複数の特許も取得しているので、簡単にマネをすることはできない。"日本発"というところも意識している」と話す。

今後の開発スケジュールは、7月にはマウスで非臨床安全性試験を開始、今年度中に安全性試験を終了し臨床研究がスタート、2020年以降に実用化となっている。
「我々は医療機関ではないので、実用化を判断するのは医師だ。臨床研究で安全性の評価と有効性のデータをしっかりと取っていく。データを蓄積してから、医療機関の方で実用化につなげていけると判断すれば、皆さんのお手元にいく形になる。解決したい患者様がたくさんいらっしゃることは間違いない。医師も解決したいという気持ちは一緒だと思っているので、協議しながら進めていく」と説明した。

慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「僕は20代の頃、髪の毛が減ってきたのに気づいてすごくショックだった。ちょうどAGAの治療が認可された時期だったので助かったと思い、7年前からミノキシジルなど飲み続けている。保険が効かないので、毎月1、2万かかっている。薬にはリスクあるという意見もあるし、でも薬をやめると髪の毛が減る。飲んでいると毛深くなるので全身脱毛に通っていて、お金がかかる。だから今回の技術にはとても期待している」と話す。

博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏は「信じられない。ただすごく期待している。1000万円と言われると怯むが、300万円くらいなら車を買うくらいだし、それくらいの価値はあると思うし、莫大な市場が生まれると思う。うちの娘は幼稚園生だが、同級生からパパがハゲていると言われるのを嫌がっていて、"パパ、毛が生えてほしい"と言うので、副作用がなければやってみたい。一方で、"ハゲビジネス"に便乗してしまっている自分もいるので葛藤はある(笑)」とコメントした。
■最初は高額なところからスタート
矢野経済研究所「ヘアケアマーケティング総監2017」によると、日本のヘアケア市場は4408億円で、そのうちかつら・植毛市場は1413億円、育毛・発毛剤投薬治療が675億円、頭皮ケア剤が300億円となっている。

今回の技術が実用化された際の費用について、杉村氏は「私たちは細胞を加工する技術を持っていて、医療機関にその技術を提供するのが役割なので、最終的に皆さんのお手元にいくらでというのは現状でははっきりしていない。毛髪に関する飲み薬や塗布剤のような解決法がいくつかあるが、そういう金額からスタートするというよりは、他の再生医療と同じような金額になっていくだろう。申し訳ないが、最初は高額なところからスタートせざるを得ないと思う。もちろん、皆さんのお手元に届くための金額にもっていくというのが企業としての役目なので、企業努力する」と話した。
日本が誇る再生医療技術によって、2020年、人類は薄毛の悩みから解放されるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)