次々と最年少記録を塗り替える将棋の藤井聡太七段(15)が、あまりの昇段の早さに、数々の名棋士たちが登竜門として戦ってきた棋戦に出場できない事態が起きている。
将棋界には「竜王」「名人」といった、いわゆる8大タイトル戦のほかにも、一般棋戦と呼ばれる大会がいくつもある。藤井七段が優勝したことで大きな話題になった「朝日杯将棋オープン戦」は、若手からベテランまで全棋士が参加している。NHK杯(NHK)、銀河戦(囲碁・将棋チャンネル)など、放送対局がベースになっているものもあれば、将棋日本シリーズのようにタイトルホルダーや選抜された棋士のみで戦うものもある。さらに、デビュー間もない棋士たちの活躍の場となっているのが新人王戦、上州YAMADAチャレンジ杯、加古川青流戦といった「若手棋戦」だ。
若手棋士の活躍の場ということもあり、これらの棋戦では出場資格として段位や年齢が設定されている。たとえば藤井七段が四段当時にベスト8まで勝ち進んだ加古川青流戦は、プロ棋士であれば四段まで。また、同じくベスト8に入った上州YAMADAチャレンジ杯は「五段以下でプロ入り15年未満(タイトル戦未出場)」だ。さらに、今年で49期目を迎えた新人王戦は「26歳以下、六段以下(タイトル戦経験者は除く)」といった具合だ。
さて藤井七段だが、2月1日に順位戦のC級2組からC級1組への昇級を決め、同時に五段に昇段した。この時点で、加古川青流戦は出られなくなった。その16日後、先述の朝日杯将棋オープン戦で優勝したことで六段に昇段。今度は上州YAMADAチャレンジ杯に出られなくなった。そして5月18日、竜王ランキング戦の連続昇級により最年少で七段に昇段。年齢的にはあと11年余裕があった新人王戦でも、ついに段位で出場資格から飛び出てしまった(今期は出場)。
新人王戦の歴代優勝者には、将棋界の第一人者である羽生善治竜王がいるほか、永世名人の資格を持つ森内俊之九段や「藤井システム」の使い手・藤井猛九段が3回優勝。他にも永世竜王、棋王の資格を持つ渡辺明棋王、佐藤天彦名人ら錚々たる顔触れが並ぶ。後に黄金の「羽生世代」と言われた棋士たちが切磋琢磨した、まさにトップ棋士への登竜門といった新人王戦だが、藤井七段はその門をくぐるどころか飛び越してしまった。
今後、何年経っても語り継がれるだろう藤井七段の偉業の数々。ただ若手棋戦についてだけは来年度以降、優勝することはない。むしろこれだけの棋士の記録がないことの方が、デビュー直後から大活躍したことの証しとなって残り、語り草にもなるはずだ。
(C)AbemaTV