本命の登場である。ん? いやいや。第一人者で今回行われている持ち時間5分、1手指すごとに5秒増える超早指し戦「AbemaTVトーナメント」の発案者でもある羽生善治竜王がいるし、関西棋界の象徴である久保利明王将も、史上最年少棋戦優勝者の藤井聡太七段もいるけれど…。
いや、本棋戦参加者は強い棋士ばかりだが、山崎隆之八段(37)こそ本命。優勝候補と言えよう。早指しと言えば山崎、山崎と言えば早指しだからだ。予選Bブロックで増田康宏六段(20)、佐々木大地四段(23)、大橋貴洸四段(25)の若手三人衆と戦う。
昨年度のNHK杯とJT杯将棋日本シリーズ(いずれも持ち時間各10分)の優勝者。前者では中村太地王座、羽生竜王、青嶋未来五段、斎藤慎太郎七段、郷田真隆九段、稲葉陽八段を破ってV。後者では三浦弘行九段、佐藤天彦名人、羽生竜王、豊島将之八段を連破して制している。「半端ないって~!! あいつ半端ないって~!! そんなに勝てへんやん普通~!!」と叫びたくなるような顔触れである。
2016年にNHKで放送された「将棋フォーカス」内の企画で「一分切れ負け将棋」(持ち時間各1分で、今回のフィッシャールールのように持ち時間は加算されない。純粋に60秒間のみで戦う)では10戦指して9勝1敗と超絶的な強さを見せつけた(ちなみに1敗は深浦康市九段に喫した)。曲芸のようなスピードで最善手を指す姿は、棋士が持つ特殊能力を視聴者に向けて可視化させ、話題を集めた。
早見えの才は若き頃から発揮されている。2002年度に終了した早指し新鋭戦のラストイヤーに当時21歳で最後の優勝者になっている。ちなみに同棋戦は今回と同じ持ち時間各5分の設定でもある。
早指しという要素を除外しても、2002~03年度に公式戦22連勝を記録(歴代4位タイ)、2009年度の王座戦でタイトル初挑戦(羽生に3連敗して奪取ならず)の実績があり「鬼の棲み家」と称される順位戦B級1組にも長年在籍している強豪だ。
強さの背景には、2つの特徴がある。
ひとつは圧倒的な独創性。定跡に囚われず、自由な戦略と発想による奔放な指し口で知られる。自らの世界観に誘い込んで一気に勝負を決めるスタイルがファンを魅了する。
もうひとつは、1つ目とも付随する点だが、人間と棋士の力を信じていること。コンピュータソフトが導き出すものに対して安易に従うような風潮に疑問と危機感を抱く。人間としていかにして考え、勝つか。本棋戦の存在意義と肉薄する思想でもある。
関西所属棋士らしく、素顔は冗談好きのイケメン。かつては「西の王子」とも称された。NHK「将棋フォーカス」でもメインキャスターを務めている。
広島市出身で名門・森信雄七段門下。兄弟子である故・村山聖九段が晩年に面倒を見た後輩でもある。村山九段が亡くなった1998年度に四段昇段。思いを継いでいる。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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