「J-Startup」という言葉をご存知だろうか? J-Startupは、(1)世界で戦い、勝てる日本発の企業を作る、(2)“特待生企業”を選んで官民で集中支援する制度で、先月からスタートした。しかし、スタートアップ企業は9割以上が失敗に終わると言われているのが現状。そんな中、起業家の“発想力”を鍛えている学校がある。
表参道からすぐの場所にあるのは「事業構想大学院大学」。教室をのぞくと、熱心に質問をぶつける学生と、それに答えるレノボ・ジャパン前代表取締役社長・留目真伸氏の姿。留目氏が自分の経験から話す「ビジネスモデル策定」について、学生が列を作って質問に殺到する。
この学校ではそのほかにも、ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子氏やアイリスオーヤマ代表取締役社長の大山健太郎氏、ファッションデザイナーのコシノジュンコ氏、吉本興業代表取締役社長の大崎洋氏(崎はたつさき)など、現役で活躍する経営者を講師として多く招いている。一方で、有名大学出身の教授が経営学についての講義も行い、理論と実践の両方を学ぶ。
新規事業やベンチャー企業を興したい人を対象としたこの「事業構想大学院大学」では、各学年70名が2年間でアイデアの出し方を学ぶ。学費は年間160万円と決して安くないものの、受験倍率は約2倍という人気ぶり。2年生になるとそれぞれがゼミに所属し、自分の考える新事業について発表する授業が主になる。
学校には医師や大手企業社員、MBAを持つ学生も在籍するが、マーケティング会社に勤務する立畑さんは「あまり資格自体に興味はない。経営学という広いところではなく、それを使ってどういう風に『事業を生み出していくか』のほうが大事だと思う」と入学した理由を話す。
学校名にもある「事業構想」という言葉。その意味について田中里沙学長に話を聞くと、「自分が持てる経営資源をいかして、理想の姿を描くということ。まだ無いものをどういうふうに描いて創っていくかということ」だという。
また田中学長によると、中継を駆使して大阪・福岡に学校を増やすなかで、生徒たちのある傾向に気付いたという。
「1学年に3~4割程度は“事業承継者”の人がいる」(田中学長)
事業承継、つまり家業を継ぐ人が抱える問題は増えているという。
事業構想大学院1期卒業生の河津考樹さん。河津さんが経営するのは料亭を改造した外国人向けの宿泊施設で、いたるところに料亭時代の面影が残っている。支える梁や照明もそのままだ。
幼い頃から、実家の不動産業を継ぐことが決まっていた河津さん。ボストン大学を卒業後は不動産や証券の会社に勤務していたが、その傍ら事業構想大学院に通い「ホテル事業」の構想を練っていた。得意な語学力と不動産業の中にビジネスチャンスを見出し、現在は「KAISU=介す」の名の通り宿で人を介している。
一方、“魚”にも事業構想の力が生かされている。建物のなかに運びこまれる青い箱。中にいるのは魚で、青い箱は「活魚ボックス」という商品だ。試しに、活きが良い鯛を活魚ボックスと同じ水に入れてみると、みるみる鯛の動きはゆっくりに。そして1分も経たないうちにお腹を上にし、“睡眠状態”に入った。
この「活魚ボックス」は、二酸化炭素で水を調整し魚を生かしたまま運搬することで、新鮮な魚を安価で日本中に提供することを可能にする商品。扱うのは、建設現場の足場など設備リースを行う日建リース工業。事業構想大学院出身の関山正勝代表取締役社長は、大事なのは発想の転換だと話す。
「『活魚』は高価。それをいつでも供給できるような体制をとっておけば、最終的に高く売れ、魚価が高くなる」
もともと銀行マンだった関山社長。父親がはじめたこの会社は兄が継ぐと決まっていたが、兄が急逝したことにより突然後継ぎとなった。すでにMBAや中小企業診断士などの資格を持つ関山社長。「事業の新陳代謝を考えれば、必ず次の事業を生み出していかないと企業自体が衰退していくことになる。結局のところ『事業構想』そのものができなくてはいけない」と、既存ビジネスにこだわるのではなく、新しい事業を生み出すことの重要さを語った。
世界で戦える起業家を育てる「事業構想大学院大学」の取り組み。一方で、ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏は「生き残る施策も必要」と見解を述べる。
「アイデアが出尽くしたり新しい企業が出てきたりする中、伝統的なビジネスや企業をちょっとずつ時代に合わせて変えていくのが、世界で勝つというより生き残るための施策かもしれない。今世界で勝っているのはプラットフォーム。一つひとつのビジネスも大事だが、全体の仕組みを考えているようなグーグルとかフェイスブックとか、その土台を作っている企業は日本からは出ていない。アメリカさらに言えばシリコンバレーから生まれているのが現状で、次のインターネットといわれる人工知能の分野でも日本はかなり出遅れている」
プラットフォームでどう立ち回るかが重要だと話す竹下編集長。サッカーワールドカップロシア大会で、日本が他国の状況を踏まえた戦略をとって決勝トーナメントに進出したことを例に挙げ、「大学に通いながら、全く違う分野の人と触れ合うことで自分の常識やビジネスの慣習をひっくり返して、工夫していくことが大事。今のイノベーションは、発想力ではなくて組み合わせの力。人、会社、テクノロジーがそれぞれ全く関係のない分野を自分のビジネスに取り込むことが、ひとつの勝ちパターンだと思う」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)