持ち時間5分、1手につき5秒が加算される超早指し戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」の予選Bブロックの2位決定トーナメント1回戦(三番勝負)が7月8日に放送され、佐々木大地四段(23)が山崎隆之八段(37)を2連勝で下し、2位決定戦へと進出した。山崎八段は昨年度のNHK杯、JT杯将棋日本シリーズと、早指し棋戦で優勝しており、優勝候補として名を挙げられていたが、早指しを上回る超速将棋に翻弄される形で、予選で姿を消すことになった。
超速将棋には、見る者を惹きつける魅力と、指す者を困惑させる魔力が同居していた。早指しの雄・山崎八段は、増田康宏六段(20)に三番勝負で連敗を喫し、1位決定トーナメント1回戦で敗退。意地を見せるべく、2位通過を狙っていた。その意気込みどおり、佐々木四段との1局目は完全に山崎八段ペース。解説を務めていた行方尚史八段(44)も「山崎さんがかなり優勢を築いた」と語っていた。ところが勝勢とも思われた終盤で、まさかの急転直下。一気に形勢を悪くし、102手で敗れた。「さすがにこれで負けるのは…。最後、秒読みになってパニックになってしまいました。ちょっと信じられないくらい、ひどい…」と語ると、勝った佐々木四段も「なんとか拾ったような勝ち方でしたね」と苦笑いした。
実力者であっても、一度刻まれたチェスクロックの無機質な音に戸惑いが収まらない。続く2局目、今度は終盤で山崎八段が盛り返したが、またしても終盤で差をつけられた。「秒読みというか、ピッという(タイマーの音)に極端に弱くて負けてしまった。全てが足りないという以外、考えられないですね」と振り返った。結果は133手での敗退。初戦の増田六段戦から、まさかの4局全敗で大会を去ることになった。
1時間かけて1手を指すのも将棋なら、ほんの数秒の間に数手先まで読むのも将棋。徐々に超速将棋のコツをつかんだ増田六段とは対照的に、最後まで持ち時間5分、1手ごとに5秒加算というルールに悩まされた山崎八段。羽生善治竜王が考え付いた新感覚の将棋は、見る者も指す者も、同時に震えさせる。
◆AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治 将棋界で初めて7つのタイトルで永世称号の資格を得る「永世七冠」を達成した羽生善治竜王が着想した、独自のルールで行われる超早指し戦によるトーナメント。持ち時間は各5分で、1手指すごとに5秒が加算される。羽生竜王が趣味とするチェスの「フィッシャールール」がベースになっている。1回の顔合わせで先に2勝した方が勝ち上がる三番勝負。予選は藤井聡太七段が登場するAブロックからCブロックまで各4人が参加し、各ブロック2人が決勝トーナメントへ。シードの羽生竜王、久保利明王将を加えた8人で、最速・最強の座を争う。
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