館内の客入りはまだ5割にも満たない正午過ぎだというのに、土俵上に立つ2人は割れんばかりの大きな拍手と声援を浴びていた。三段目の4戦全勝同士によるこの一番は数年後、幕内屈指の好カードになることは間違いない。ともに188センチという長身。琴手計は体重が144キロ、納谷は166キロと見るからに大器の両者は今春、相撲の強豪校である埼玉栄高を卒業したばかりの同級生。昨年はチームメートとして高校総体団体3位、国体少年の部の団体優勝を果たした仲だ。
手の内を知り尽くした両者がプロで対戦するのは初めて。果たして、頭で当たり合うと激しい突っ張り合いから、納谷が思わず引いたところを琴手計が一気に攻め立て押し倒し。納谷はたまらず腰から崩れ落ちた。時間こそ短かったが、両者の攻防がぎっしり詰まった中身の濃い相撲内容に、客席からは取組前以上に拍手が沸き上がった。
「我慢できなかった」とポツリと敗因を語った納谷は、先場所に続いて今場所も優勝の可能性が消滅し、通算でも2個目の黒星を喫した。一方の琴手計は納谷より2場所先の昨年九州場所、佐渡ヶ嶽部屋から初土俵を踏むと、これまで各段優勝の経験はないものの今場所は大きなチャンスが到来した。
敗れた納谷も残り2番を連勝し、6勝すれば来場所の新幕下が見えてくる。ライバルに差をつけられないためにも、これ以上は負けられない。今年初場所、序ノ口の優勝決定戦で琴手計に勝って栄冠をつかんだ塚原(春日野部屋)も同じ埼玉栄高の同級生。今場所は三段目上位で苦戦するが、こちらも190センチと体格にも恵まれ、将来が楽しみな逸材だ。
かつてのチームメートによるライバル競争は今後、益々激化することは必至。彼らが近い将来の土俵を熱く盛り上げてくれそうだ。
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