将棋で負けても「甘酸っぱい」と評するほど、将棋愛が溢れる棋士がいる。5月に自身初となるタイトル、叡王を獲得した高見泰地叡王(25)だ。対局はもちろん、人間味あふれる解説が人気で、ファンからは愛情を込めて「プロの解説者」とも呼ばれたが、ついに将棋界の序列3位のタイトルを手にしたことで、8人のタイトルホルダーが群雄割拠する中に、堂々と飛び込んだ。自宅で、研究会で、シェアハウスで。日々、将棋に明け暮れる高見叡王に、「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」決勝トーナメント前に話を聞いた。
将棋に関するものは、とにかく前向きに吸収する。強豪棋士との対局は、もちろん勉強にはなるが、その差を感じ、唇を噛むことも少なくない。それでも「たくさん将棋が指せてうれしいです」と、笑顔で語るのはいつものことだ。普段は研究会でVSを重ね、同年代の棋士と視点や構想について意見を交わす。「こっちがいいでしょうと言うと、相手もこっちの方がいいって言ったりする。家で振り返ってみると、互角だったりするんですけどね。でも、他の人の意見を聞けるのは、いい機会だなと思います」と、外で得た知識と経験を、自宅で噛み砕いて自らの血肉にしている。
AbemaTVトーナメントの予選ブロックでは、MAXの9局指して、決勝トーナメントに進出した。持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算という超速将棋は、野球の1000本ノックのようなものだ。「予選は突破したといっても、その中で負けてしまった対局も多いので、そういう時の気持ちって、レモンみたいな感じだと思うんですよね」と、独特の表現で振り返ると「将棋って勝つともちろんうれしですけど、負けた時の甘酸っぱさってすごいものなんです。対局者にしかわからない」と続けた。
勝ちの味だけでなく、負けの味すら楽しんでいるように見えてくる。ただ、いくら好きでも勝たねば生き残れない非常な世界でもある。「最近、気づいたんですよ。勝った人が強いんだって」。将棋の隅々まで愛する男が、経験と実績、年齢とともに勝負師としても磨きがかかれば、群雄割拠の将棋界でさらに存在感を示すことになるだろう。
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