独自の技術でテクノロジーとアートを融合、その世界観が世界からも注目を集めている「チームラボ」。話題を呼んでいるお台場でのデジタルアートは、壁や構造物に投影された映像に触れると映像が動くなど、鑑賞するものとされるものの境界がない、世界、「ボーダーレス」を目指している。
今、そんな彼らが挑んでいるのが、佐賀県・御船山の大自然だ。江戸時代後期から続く庭園「御船山楽園」の敷地内には、樹齢3000年と言われる銘木や、1300年前に彫られたと伝わる仏像もある。オーナーの小原嘉久氏が両親から御船山楽園を受け継いだ当時、12億円の負債に対し、売り上げはその5分の1しかなかったという。銀行からもお金を借りられず、個人オーナーとして経営を続けてきた。園の再建のために直談判、コラボにこぎつけたのがチームラボだった。
チームラボがコラボするのは4回目で、昨年は世界でもっとも歴史のあるアートウェブマガジン『デザインブーム』のインスタレーションアート1位に選出されてもいる。最初は池の一部だけだった展示も回を重ねるごとに拡大、今年は隣接するホテルにまで広がった。
■社長も作り手も垣根のないチームラボのものづくり
「昨日までパリだった。明日は名古屋、明後日はもう一回佐賀」。イベントのオープン3日前となる先月16日、長崎空港に降り立った猪子寿之代表。同時進行で複数のプロジェクトを進めているチームラボは大忙しだ。
御船山楽園について猪子氏は「昔からの庭だから直線がない。わざと視線が通らないような仕組みになっていて、迷子になってしまう。自然林と庭の境界も曖昧で、さまよっているうちに何か大きな自然の一部になっていると気がつく。長い歴史の連続性の中で、自分も大きな自然の一部なんだと思い出させてくれる。里山といって、昔は日本各地にあったが、そういうものはたとえ1兆円あっても100兆円あっても絶対に作れない。本当の大自然はパワフルすぎて人間からすると居心地の良いものではないが、そういう大自然と人の営みが延々と続いてできたので居心地が良い。そんな積み重ねに、自分たちもほんの少しでも加われたらたらいいと思う」と話す。
最先端のテクノロジーの現場にいる猪子氏が、歴史を学び、歴史の連続の中に自分を置くことを重視する理由はなぜなのだろうか。「この瞬間の正しさなんてものは、歴史の中でみると一地域の、ある瞬間の流行り風邪みたいなもの。でも、みんなそれに左右されすぎているような気がするから」と説明してくれた。
作品の演出には光を使用するため、チェックは日が暮れてから。猪子氏は自身の要望を伝えるだけでなく、「どっちがいい?」「任せるよ」などと声を掛ける。メンバー同士が相手の意見に耳を傾けて理解、チームで修正していくのがスタイルだ。「何か一つのものを創るには、自分の専門性だけなく、色々な専門分野の人が加わらないといけない。ハードウェアに詳しい人、音響に詳しい人、ビジュアルの専門家など、自分の知らないことを知っているメンバーだから」。メンバーも「僕らがこっちの方がいいんじゃないかと思ってロジックやアルゴリズムを変えると、猪子さんはなんで変えたの?と聞いてくる。それを1から100まで説明しないと納得してくれないが、それも作り手側にとって嬉しい」と話す。
自然そのものがキャンバスとなるので、屋内の作品のようにはいかない。風船のようなオブジェが並ぶ展示エリアでは、水に弱いという欠点も見つかった。また、周囲が崖や谷に囲まれているため、触れようとした時に足を踏みはずしてしまう恐れもある。不安要素を話したメンバーに猪子氏は、来場者の危険回避のためオブジェの全撤去を指示していた。
■もっと境界のない世界を作りたい
9月2日まで公開されている「千住博&チームラボ コラボレーション展『水』」、今月17日から公開が始まる「下鴨神社 糺の森の光の祭 Art by team Lab - TOKIO インカラミ」など、クリエイティブなアートを次々に発表するチームラボ。
どの作品でも共通して「ボーダーレス」であること、境目がないことを意識しているという猪子氏。「都市の中で生きていると、どうしても目的があって行動してしまうが、目的を忘れて歩いていること、存在すること自体が肯定されるようなことをしたい。そもそもすべての物事を合理的に判断している人なんていない。誰もが美の基準で判断して動いている」と話す。
今後について猪子氏は「年単位とか、今年の目標とかは考えたことはない。中国の深センは30年前、漁村だった。それが世界最速で発展していて、今はアートとテクノロジーをコンセプトにした都市開発を行っている。僕もテクノロジー前提の都市のありようというものを考えたいし、もっと境界のない世界を作り、人間の価値観をほんの少しでも変えられたら」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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