15日に日本武道館で行われた全国戦没者追悼式。来年4月に退位される天皇陛下と皇后さまにとって、今年が最後の追悼式ご出席となった。
天皇陛下は、
本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来既に七十三年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。
戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
とのお言葉を述べられた。15日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、全国戦没者追悼式における、天皇陛下のお言葉の移り変わりに注目、専門家に話を聞いた。
■全国戦没者追悼式には特に思い入れ
宮内庁で23年間にわたって報道担当など務め、現在は皇室ジャーナリストとして活動している山下晋司氏は「天皇陛下のご発言については、まずは宮内庁、そして内閣が責任を持つということになっている。陛下がご本心をそのままにおっしゃるということはないが、ご自身で推敲に推敲を重ねられている。これは私の推測だが、全国戦没者追悼式のお言葉には思い入れがあるので、宮内庁に相談はしているが、基本的には陛下のお気持ちが込められているはずだ」と話す。
両陛下は戦没者の慰霊を強く希望され、戦地を訪問する祈りの旅を続け、当事者や遺族たちの声に耳を傾けられてきた。激戦地だったサイパンでは日米両国の戦没者、民間の犠牲者を慰霊、多くの日本人が身を投げた岬で祈りを捧げられた。
また、両陛下は沖縄には強い思いを寄せられてきた。皇太子時代の昭和50年、ご夫妻で沖縄を訪れた際、ひめゆりの塔で過激派に火炎瓶を投げつけられる事件や、昭和62年に昭和天皇の名代として沖縄を訪れた際には激しい反対デモが起こったこともある。それでも「沖縄の人々が経験した辛苦を国民全体で分かち合うことが非常に重要」というお考えから、平成5年、歴代天皇として初めて沖縄をご訪問。戦後50年の区切りである平成7年、平成24年、平成26年、そして今年も沖縄を訪問された。
そうした中、天皇陛下のお言葉には、新たな表現が付け加えられていく。戦後50年のお言葉には前年までにはなかった「ここに歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」という一節が加えられ、戦後70年の節目となった平成27年には、「戦争による荒廃からの復興、発展に向け払われた」「戦後という、この長い期間における国民の尊い歩みに思いを致すとき」という国民の努力への思い、そして「さきの大戦に対する深い反省」が加えられ、注目を集めた。そして最後のお言葉となる今回加えられたのが、「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」という一節だった。
山下氏は「陛下は皇太子時代から一貫して、過去の歴史を忘れてはいけないというお考えをお持ちで、この平和が戦争で亡くなった人、戦後の復興に努力してきた方々があってこそだということに国民みなが思いを寄せてほしいと考えて来られた。終戦の年に生まれた方も73歳になり、多くの方が戦争の経験がない時代になる中、表現は違うが、"平和が続いてきたことに思いを致す"という基本的な部分は同じだ」と説明。「当然のことだが、時が経つにつれて人々の記憶は薄れていく。陛下のお言葉を毎年拝聴していると、それに反比例するように、過去を忘れないようにというお気持ちが段々と強くなってきているように感じる。戦後70年の2015年もお言葉が大きく変わったが、今回は"戦後の長きにわたる平和な歳月"という分かりやすく具体的なお言葉をお入れになり、国民、戦没者の御霊に語りかけられたのだと思う」との見方を示した。
■どの政権であろうが、陛下のお気持ちは同じ
戦後70年の節目である2015年には安保法制をめぐる議論が盛り上がった時期でもあり、「深い反省」という表現がクローズアップされることになった。
山下氏は「民主党政権の頃から"過去を忘れないように"ということはおっしゃっていたが、残念ながら安倍政権になってから大きく取り上げられるようになった。これはある意味で、天皇陛下のご発言を政治利用していると言ってもいいことだと思う。鳩山政権であろうが、野田政権であろうが、陛下の気持ちは一緒だ。大事なのは節目で、翌年は2年前にようにまた戻っている。この時だけ説明の入った長いお言葉になっている」と指摘。
その上で「陛下のご退位をめぐる議論が、この戦後70年の翌年にNHKのスクープによって始まる。ただ、陛下ご自身はその5年前から、象徴としての公務が果たせなくなったら退位すべきではないか、というお考えを内々におっしゃっていた。戦後80年の年には90歳を超えておられることになるので、おそらく戦後70年が最後の節目のお言葉になるのではないか、というお気持ちの表れだったのではないか」と話した。
来年即位される皇太子殿下は、天皇としてどのようなお言葉を述べられるのだろうか。
山下氏は「陛下のお言葉をほとんど踏襲されるのだろうと思う。陛下も戦後50年までは昭和天皇のお言葉を踏襲されている。陛下ご自身が色々な場所を訪れ、色々な方の話をお聞きになって、戦争に対する思いがどんどん深くなっていき、ご自身のお考えをお入れになったのが戦後50年の節目。そして戦後80年、90年というタイミングで表現が大きく変わっていく可能性はある」との考えを示し、「誰かが解説するというよりは、それぞれがどう受け止めるかだ。10歳と90歳では当然受け止めが違うし、同じことを陛下と皇太子殿下がおっしゃるのとでは、また違うと思う。それぞれがお言葉を大切にしてほしいと思う」と話した。
ジャーナリストの堀潤は「陛下のお言葉を受け取った私たち一人一人が何を考えるのか。日本が変わって行くなかで、天皇陛下が政治情勢をどのようにご覧になっているのかを伺うことはできないので、察するしかないが、特に"深い反省"という言葉の意味はじっくり考えたい。平和について日本だけではなく世界中に投げかけていく役割を担っていることを感じる」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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