将棋界の第一人者、羽生善治竜王(47)が自らの着想で生まれた超速将棋に、ついに挑戦する。早指し戦の中でも「持ち時間5分、1手につき5秒加算」という、チェスで用いられるフィッシャールールをベースにした超早指し棋戦「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」は、ベテランだけでなく早指し有利と言われる若手棋士たちも、そのスピード感に翻弄されている。「テンポよく指し手が進んでいくので、そういう意味ではスピーディーな棋戦だなというのが実感ですね」と語る羽生竜王が、今度は自ら指す番になった。公式戦でも数々の早指し棋戦で優勝経験があるレジェンドは、どんな将棋を見せるのか。
持ち時間が短いために、その場面を一瞬で把握する瞬発力を要する早指し戦は、一般的に若手有利と言われている。ただ、今年度中にも通算2000局を数え、その上で勝率7割超えをキープしている羽生竜王にとっては、得意も不得意もない。史上最多のタイトル99期と並び、大山康晴十五世名人と並んで史上1位タイの一般棋戦優勝44回の中には、多数の早指し棋戦も含まれる。今回は決勝トーナメントからのシード棋士として登場することに本人は「このルールは基本的に若い人が有利なので、シードをもらっているのが申し訳ないくらいの感じはあります」と謙遜するが、やはり考案者にして優勝候補であることに違いはない。
1手に1時間以上かけるのも将棋なら、わずか数秒の間に指すのも将棋。今回は後者のさらに特化させたルールだ。「1手10秒とか5分切れ負けとか、そういうのは練習でやる機会というのはあったんですけど、途中から将棋の勝負ではなく、時間の勝負になってしまう。(持ち時間の)加算であれば、もちろん切れる可能性はあるんですけども、それはかなり(発生確率を)低く抑えることができるということで、おもしろいものになるんじゃないかなと思いました」と、思いついた背景を明かした。既に予選ブロック、決勝トーナメントでも、このルールにあった戦型や持ち時間の使い方などが、各棋士の中で考案されつつもある。それだけ棋力と瞬発力、バランスよく発揮できるルールだったということだ。
決勝トーナメント1回戦で当たる相手は、若手有望株の1人、佐々木大地四段(23)だ。練習将棋でも指したことがない相手だが、これまでも数多くの若手たちの前に、巨大な壁として立ちふさがってきた。「『直感を大切に!』ですね。(手を)読んでいる時間はないので、パッと見た第一感を信じて、指していこうという風に思っています。やっぱりおもしろい将棋というか、自分が指していても楽しい将棋が指せたらいいなと思っています」と、意気込みを語った。
自分で考えたとはいえ、さすがに時間がなくなる寸前の最終盤は羽生竜王も痺れることもあるだろう。ただ、そんな状況になった時、その指はどの駒を持ち、どんな手を指すのか。一番楽しみにしているのは羽生竜王自身かもしれない。
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