16日、浜松市の新村和弘市議が辞職願を提出した。市民が驚いたのは、その理由だ。ネット上の無料で閲覧できるアダルト動画などを入手、議員控室などから著作権者の許可なく動画販売サイトに通算100本ほどをアップロードして販売、換金可能な10万円分のポイントを獲得していたというのだ。
新村市議は「うかつにも浜松市議会のLANを使って、アダルトも含まれている内容を取り扱ってしまった。動機としては、お金ということになる。私の中では著作権物だと認識していなかった。なにしろフリーで落ちていた」と明かした。
17日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、権利意識の問題、そして今後のアダルトコンテンツについて、AV女優の紗倉まな、そして元AV男優の加藤鷹を交えて議論した。
紗倉は以前、「色々なサイトに動画がばらまかれることで名前を知ってもらえていることも多いけれど、そこから『嬉しい!』という気持ちには繋がらない。一生懸命に作り上げた自分の作品が、他人に勝手に無料で提供されてしまったらどうでしょうか。一時の快楽を手頃で済ませたい方々にとっては面倒くさい話ですね」とツイートしていた。
紗倉:色々な反応があって面白かったが、一番衝撃的だったのは"お金が無いんです。無料で抜かなくてはいけない人の気持ちを考えてください"とに真剣に訴えてきた人がいたこと。著作権について意識の足並みを揃えるのは難しいと実感した。違法にアップロードされた動画を通して自分のことを知ってくれる若い方々も多い。でも、"無料動画でよく見てます"と直接言われることもあるので、あまり意識していないんだと感じている。もちろんメーカーもパトロールや異議申し立てを行っているが、根本的に、この"いたちごっご"は防げない気がする。
映像や音楽などの著作物を違法にアップロードした場合や、それをダウンロードした場合には著作権侵害に問われるが、ストリーミング再生は複製には当たらないため、"セーフ"となっている。また「FC2」など、サーバーが海外に置かれているプラットフォームの場合、著作権者にとっては対応がさらに難しくなる。
向井慧(お笑いトリオ「パンサー」):先輩であるケンコバさんやブラマヨの吉田さんが"業界が廃れてしまうから、お前ら絶対に違法アップロードのものは見るなよ"とおっしゃるんで、吉本芸人の若手は本当に見ないんですよ。
向井の話にあるように、ネット上のアダルトコンテンツに関しては違法にアップロードした者やプラットフォーム側ばかりが利益を得てしまい、制作者への還元がされにくい構造がある。今回の市議のような行為は、まさにそうした状況を象徴する事例だった。そこで加藤鷹が、「捕まえる、訴える、というのも大事だが、むしろ作る側の努力が必要な時代が来ているのではないか」と切り出した。
加藤:例えばアダルト作品のDVDには、長いものだと4時間なんてものもある。このネット社会で、ビール飲みながら頭からケツまで4時間も見る人が果たしているのかなと(笑)。"俺は1分になってるのでいいよ"というような人たちはネットに探しに行ってしまう。僕がいた頃から制作の現場はあまり変わっておらず、まだまだアナログ。"こんな良いものを作りましたから、ぜひ全部見てくださいね"という感覚なので、DVDやフルでのダウンロードの購入を消費者側に求めている部分もあるのではないか。
アダルトメディア研究家の安田理央氏は、アダルト業界が生き残る道について「音楽と同じ定額制」「ヘビーユーザーに向けた付加価値サービス」「双方向で楽しめるVR動画」を挙げている。
塚越健司(拓殖大学非常勤講師):音楽業界の場合、2000年代に海賊版がものすごく増えてしまったが、全てを取り締まるのは無理だとなった。今では『Spotify』や『LINE MUSIC』などで、月に500円くらい払えばたくさんの曲が聴け、自分の好みにあった曲も教えてくれる。2000年代ずっと低調だったアメリカの音楽業界も、これによって回復した。
ハヤカワ五味(デザイナー/実業家):まだ無料でそんな動画を見ているの?という感覚が広まっていくことが鍵かもしれない。最近では同じものを安く作ることが簡単になってきているので、パーソナライズによる付加価値や、VRを使ったリッチなコンテンツはどうか。
紗倉:"3分間のサンプル動画でも、抜きどころがあればいい"と満足してしまう人も多い。"新しいもの×エロ"は、人の興味を引きやすく、お金を払ってくれることにつながるかもしれない。
塚越:最近ではZOZOスーツが話題になったように、インターネットとデータを活用すれば、ユーザーに合った女優さんやプレイスタイルを提示し、さらにVRの技術などを通して、様々なことが実現できるようになると思う。既にドイツのある企業が、一番いい動きをしてくれるバイブレーターを開発している。若い世代はお金が無いが、年を取ると余裕が出来て、付加価値あるものへのニーズも高まるので、例えば5000円払うと、データに基づいて様々なコンテンツを提示してくれ、オナホールの強度が最適化されるようなものも可能かもしれない。
世界最大のアダルトサイトと言われている『PornHub』が毎年レポートを出していて、国別のアクセス数や検索ワード、何秒くらい見たかなど、様々なデータを公開している。一般の人にとっても面白いものだが、実はこうしたビッグデータを活用することで、膨大な選択肢の中から、そのユーザーに合ったコンテンツをレコメンドすることもできる。アダルト産業にはそういったデータがかなり蓄積されているはずだが、あまり表には出てこない。
小松靖(テレビ朝日アナウンサー):『PornHub』のようなサイトには、人種やプレイスタイルなど、非常に細かな趣味嗜好がカテゴライズされていて、視聴のビッグデータを持っている。それをコンテンツ産業に売ることにより、ユーザーは無料で視聴ができ、制作者に還元することも可能かもしれない。
塚越:非常にセンシティブなデータなので、流出してしまうと大変問題になるが、仮に1円だったとしても、わざわざクレジットカードを登録するのはハードルが高く、0円とは大きな開きがある中で、試みとしてはあり得ると思う。
紗倉:本来、AVは"アシストするもの"としての役割だったのが、性癖やどの強さ、速さが気持ちいいのかを把握してくれるようになり、アダルトコンテンツが全てにおいて満足度を高めるものになってしまったら、恋人では叶わないものになってしまうのではないか。
小松:テクノロジーには超えられないものがあると思う。それが加藤鷹さんのテクニックだったんじゃないか(笑)。
加藤:今でも相変わらず深爪なんですけどね(笑)。
塚越:なんでもかんでもカスタマイズされたものというのは、慣れてしまうとつまらないものになる。だからITの世界では、たまにレコメンドを外して、急に"なにこれ?"と感じるものを提示する試みがある。恋愛もそうだが、人間の関係性で大事なのは不確実性。なんで怒ったんだろうと考えたり、トラブルから愛の感情が深まり、新しい段階に行くもの。テクノロジーが人間をダメにするというが、テクノロジーが合わせると、それを超えて、違うことを考えるのが人間だと思う。
加藤:僕らはビデオの時代に一番仕事をしたけれど、当時は1本1万5000円くらいしたのが、もう0円に近くなってしまっている。ただ、ダウンロードを見ていると、どれも数百円でほぼ同額。むしろ、紗倉まなが100人のためだけに作った動画だから1本10万円とか、そういう方法論で作った高額作品の方が回収できる可能性もある。
最近海外に行くことが多いが、中国では女性のロボットを作ろうとしているし、本当にできるんじゃないかと思う。そう考えると、動画そのものにいつまで価値があり続けるだろうか。今はVRも旬だが、3年したら、"お前まだそれ見てるの?"という時代になっているかもしれない。そうなれば、違法動画で騒いでるのも過去の話になってしまう。だから業界関係者は対策や取締りをしつつも、何か新しいものを真面目に考えていった方がいいのかもしれないね。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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