中央省庁や自治体が、法律で義務付けられた障害者雇用数を「水増し」していたとして批判が出ている。24日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、障害者雇用の実態と課題を議論した。
「障害者雇用促進法」では、民間・行政機関に対し、一定の割合以上の障害者を雇うよう義務付けており、今年4月にはその基準=法定雇用率が民間企業では2.0%から2.2%、行政機関では2.3%から2.5%と引き上げられている。
民間企業の場合、基準を達成できなければ納付金が徴収されることになっていることもあり、連合の神津里季生会長は今回の問題を受け「非常にふざけた話だなと思う。やれないんだったら罰金を払ってください、という枠組みの中でいわばウソを言い続けてきたということだ。一体何なんだと」と厳しく批判した。
厚労省の調べによると、去年6月の時点で中央省庁など国の33の行政機関が雇用していた障害者の割合は当時の基準2.3%を上回る2.49%に当たる約6900人になっていた。ところが今回、この内の2000人超が国の定める障害者雇用のガイドラインに合っていなかったことなどが指摘されている。同様の問題は、24日までに20の県でも確認されている。
■目標達成のため、あえて規定を緩くしたか
この背景にあるとみられているのが、厚労省が2005年に出した「ガイドライン」と、昨年まで行政機関向けに出されていた「通知」の表現の違いだ。すなわち、対象となる障害者の具体的な確認方法について、前者は「障害者手帳などの証明書類で確認」とされていた一方、後者では「原則として身体障害者手帳の等級に該当する者」となっていることから、行政機関はこの"原則として"という表現を根拠に、自己申告をもとに障害者として雇用したというのだ。
野党側による合同ヒアリングの冒頭、元厚労相でもある立憲民主党の長妻明代表代行は、全容解明に向けた委員会の設置を拒否した自民党を批判した上で、「厚労省の指示を読み間違えて、つまり『原則』という文字を入れたことによって勘違いをしたのか、あるいは悪質なのか。チェックのあり方、そして現状の雇用率の是非、障害者の雇用を進めるための支援体制の強化など議論することは山ほどある。ただの不祥事で終わらせてはならないということだ」と訴えている。
元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏は「この種の法律は、民間に対し"役所もこれだけ頑張っているから"ということを示すために、行政機関の基準は一段高くして作る」とした上で、「いくつかの省庁で協議して"原則として"を付け加えたのだと思う。民間企業には助成金もある一方、雇入れに対するインセンティブはない行政機関のために規定を緩くしようとしたのではないか。もともと人事制度が柔軟ではなく、雇用の流動性が低い行政機関は、近年さらなる定員削減が求められ、新規採用も減っている。そんな中で障害者雇用率の基準が上がって行けば、何かしらの不正は起きやすくなるだろう。人事制度や公務員労組の問題にまで踏み込んで議論しなければいけない」との見方を示した。
■行政機関における障害者雇用の実態
では、こうした行政機関の基準の"緩さ"が、障害者手帳の交付を受けてはいないものの、何かしらの障害を抱えた人たちの雇用に繋がった、という側面はないのだろうか。
自身も脳性麻痺の子息を育てる中島隆信・慶大教授は、あくまでも意図的な「水増し」だったとの見方を示し、「障害者雇用は当初、内臓疾患、ペースメーカー、人工透析の方も含めた身体障害者から始まった。しかし次第に雇用率が上がり、知的障害者、精神障害者も加わり、なかなか基準が達成できない。そうした中で"原則として"という表現をつけるよう行政機関が抵抗し、わざと自己申告ということにしていったのではないか」と推測した。
行政機関での障害者雇用の実態はどのようなものなのだろうか。厚労省の場合、知的障害者・身体障害者は名刺などの印刷業務、発行物の管理、新聞のクリッピングや書類の配布を、精神障害者は郵便物の配送や資料配布をそれぞれ担っているという。
宇佐美氏の"古巣"の経産省の場合、障害者は省内の診療所の受付業務やコピーや書類整理などオフィスワークの補助業務を行い、一般の職員と一緒に働いている。「私の経験上、業務が大きくは変わらない統計の部署などでは身体障害者も一緒に働いていた。ただ、精神障害者の場合は、付き添ってあげる人が必要になるケースもあるし、こちら側にも専門知識が必要だと感じていた。仕事がない状態で受け入れなければならない状況や、障害者同士のトラブルも経験した」(宇佐美氏)
■一律の「法定雇用率」の考えを改める時期?
こうした行政機関での現状について中島氏は「法定雇用率で行政機関を縛ることが、かえって問題を分かりにくくしている。近年はスリム化を目指して人員を削減し、アウトソーシングも進んでいるため、内部に残っているのはコアな事務仕事。それを障害者に担ってもらうのはハードルが高いし、雇用率2.5%をクリアするほどの仕事は残っていないと思う。民間企業にとっても限界があり、経営方針として子会社を作り、積極的に仕事を作ろうとしているところもあるが、稼ぎのない行政機関は仕事を勝手に増やすこともできず、予算措置も必要。数値目標のために、トイレ掃除やシュレッダーの仕事を増やせばいいのだろうか。私はそうは思わないし、単純に"役所はダメだ"と言うだけでは根本的な解決にはならない」と指摘した。
宇佐美氏も退官後に民間企業の立場で障害者雇用促進法に向き合った経験から、今のままでは厳しいと感じたと話す。
「全ての企業に一律に基準を課し、その責任を負わせると、障害者が弱い立場に置かれてしまう。私が事業再生に関わったとき、黒字にするには新しい設備を入れ、障害者を解雇しなければならなかった。"せっかく就職できたのに"と親御さんが泣きながらお願いをしてきたが、事業存続のためには我慢してもらわなければならず、すごく辛かった。知的障害者と精神障害者に関してはリサイクルや農業など、地域として雇用を生み出す枠組みのなかで考えていくべきだし、多くの障害者を雇っている企業から製品を買えば加算するなど、市場メカニズムでの調整も必要な時期にきている」と訴えた。
中島氏は「全ての企業が基準を守れば、障害者の失業率と日本全体の失業率が一致する、それを目指して法定雇用率は計算されているのだろう。しかし、そもそもどれくらいの障害者が失業しているのか、実は統計上はっきり分かっていないのが現実だ。なぜなら国勢調査には障害者という項目がなく、日本にどのくらいの障害者がいて、その内どのくらいが働いているかが正確に把握できていないからだ。また、施設に通っているとか、あるいは精神科に入院しているという理由で、働く意欲はあっても職探しができていない障害者もいるはずだが、休職していない以上、彼らは失業者としてもカウントされておらず、法定雇用率の分子から消えてしまう。こうした状態で基準値が出てきていることに前から疑問を持ってきた」と話す。
「平等な社会を作るためには、やはり一定程度は義務化しつつも、障害者を雇っている福祉事業所に仕事を発注するといったことも雇用率にカウントし、社会全体で数字を達成することを考えればいいと思う。これから先、硬直的な労働市場の中、知的障害者、精神障害者も含め、障害者にどういう仕事をやっていってもらうのかとセットで考えていかないといけない。誰でも得意なこと、不得意なことがある。それを理解して、得意なことをみんながやれば、障害者にも働く機会が生まれるはずだ」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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