アメリカでは年間約2万5000件も行われる臓器移植手術。それに対し、日本では年間300件程度にとどまっており、移植の待機中に亡くなった人は6518人(1995年~2018年7月31日現在、臓器移植ネットワーク発足以来の登録者)に上っている。
提供する人と移植を希望する両者が揃って初めて成り立つことから、"特異な医療"と言われている臓器移植。提供側としては、呼吸や心拍が停止したことが確認される「心停止」、脳全体の機能が失われた「脳死」の2つの条件をもって臓器の提供が可能になる。ところが日本では「脳死」を人の死とするかどうかで意見が分かれていたことから、臓器移植は長い間行われず、1997年に臓器移植法が施行されてからも、その件数は少ないままだ。
27日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、日本の臓器移植が抱える問題について、当事者を交えて議論した。
■ドナーになった4歳児
特に脳死判定された6歳未満の子どもからの臓器提供はこれまでに約10件と少なく、多くの子供が移植を待ちながら亡くなっているのが現状だ。
3歳離れた妹・希幸ちゃんの面倒をよく見る、優しいお姉ちゃんだった白木優希ちゃん(当時4)の身体に異変が起きたのは、2014年のことだった。両親が「風邪のようだった」と振り返る症状が悪化、救急搬送された病院で医師から告げられた病名は「特発性拡張型心筋症」。心筋の異常により、必要な量の血液を全身に送り出すことができなくなる原因不明の難病で、助かるために残された根本的治療法は心臓移植しかなかった。
しかし白木さん一家には、日本の臓器移植の厳しい現実が待っていた。通常、国内での心臓移植を希望した場合、臓器提供者が現れるまでの「平均待機期間」は約3年。優希ちゃんに、それほどの時間はなかった。同年11月には容体が急変、一刻を争う事態に陥った。心機能を示す数値が日に日に悪化したことを受け、リスクの高い人口心臓をつけた。いつ何が起きても不思議ではない状況に、白木さん夫婦が出した結論は海外での移植手術だった。
国内移植の場合、自己負担は数十万~数百万円なのに対し、近年では渡航移植にかかる費用は高騰、病院側に支払う保証金や飛行機のチャーター費などを合わせると、約3億円にも上るという。両親は募金活動を開始、人工呼吸器を装着しているため話すことができない優希ちゃんは、涙を流して自分の気持ちを訴えていたという。
年が明け、渡米の準備が進む中、優希ちゃんが恐れていた脳梗塞を起こしてしまった。脳死状態なのかどうか尋ねた父・大輔さんに、医師は小さくうなずいたという。初めて病院に行ってからわずか100日後のことだった。そして夫妻は、優希ちゃんと同じように苦しむ子どもたちのため、娘の臓器提供を提案する。「主人が"他の臓器は元気なんですか?"と聞いた時に"あ、同じこと考えているな"と思った」(母・希佳さん)。懸命に生きた小さな体から肺、肝臓、腎臓が摘出され、4人の命が救われた。
■国が率先して環境整備を
厚生労働省臓器移植委員などを歴任、自身も妹からの腎臓の提供を受けた日本臓器移植ネットワークの大久保通方・副理事長は「日本では死生観の問題が指摘されることが多いが、色々な宗教が世界にある中で、死生観によって件数が増減するわけではない。2010年の改正法の施行により、法整備としてはある程度できている。後は病院の体制や、それを支える政策、国民への情報提供が重要だ。諸外国のように、日本も国が主導となって人と予算の整備に取り組むべきだ」と指摘する。
臓器提供施設の体制整備状況を見てみると、全国の896施設のうち体制が整っているのは435施設で、残りの461施設では脳死したドナーからの提供は行われないという。
木内博文氏は1990年、20歳の時に「特発性拡張型心筋症」と診断され、1993年に臓器移植コーディネーターと出会い、アメリカでの移植を決意した。しかし、当時の日本社会の雰囲気は、移植を望む人たちにとって厳しいものだった。「当時、脳死臨調(臨時脳死及び臓器移植調査会)という諮問機関が設置され、"世界では脳死を人の死としている、だから日本も脳死を人の死として良い"という答申が出た。しかし社会はこれに反発した。その中で私は発病した。だから90年当時、移植は受けられないと覚悟していた。死にたくないのに、どこかで死ぬことを待たなければならなかった」と振り返る。
そして5年前、木内氏はアメリカで心臓移植手術を受ける。ドナーはわずか4日で見つかったという。「たまたま到着したその日に、病院の最優先に入れていただいた。アメリカでは体調が悪くなる前に移植を受けられる。裏を返せば、それだけ体が悪かったということ。費用はトータルで4000万円ほどだった。半分は両親、もう半分は募金で集めさせていただいた」。
■オーストリアでは99.9%が「臓器提供可」の理由
現在、日本で臓器提供の意思表示の方法は、健康保険証や運転免許証、マイナンバーカードへの意思表示、臓器提供の意思表示カード、そしてインターネットによる意思登録などがある。
木内氏はアメリカで出会った臓器移植コーディネーターの「僕が死んだら、僕の腎臓で誰かが元気になったら嬉しい」という言葉に感銘を受け、「自身もドナーになれたら嬉しいだろうな」と感じたという。現在は患者会でオリジナルの意思表示カードを作り、啓発活動にも取り組む。「臓器提供する・しないは関係なく、移植医療があってもいいというコンセンサスがあれば、臓器提供する施設も予算も増えていくはず」。
ノンフィクションライターの石戸諭氏は「臓器移植を手がける医師に取材した際、"オーストラリアでは臓器移植は普通の治療。日本では最後の手段と思われているが、それは違う"と言っていた。また、オーストラリアには自分もいつ臓器提供を受けるか分からないからこそ、自分も提供する意思表示をするという考え方があると言っていた」と話す。
「"ドナーになるということを拒否していない場合は臓器提供可とみなす"、という国と、"臓器提供可とはみなさない"という国に分かれている。例えばオーストリアは前者の立場を取っているので、99.9%の人が臓器提供可。死生観の問題ではなくて、どういう風に意思表示をするかという制度設計一つで大きく変わってくる。そうした議論が日本では遅れている。メディアによる報道も、脳死をめぐる問題はかなり特別なものであるという議論が長く、臓器提供は身近なものではなく、どこか遠い話だと感じさせてしまっていた」と指摘した。
今も国内では約1万3500人もの移植希望者が待機している。一人でも多くの命を救うために、臓器移植をめぐる議論の活発化が望まれる。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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