女子体操の宮川紗江選手が告発したパワハラ問題。31日、日本体操協会の塚原夫妻は書面でコメントを発表。「決して宮川選手を脅すための発言はしていません」「宮川選手に対して朝日生命体操クラブへの勧誘は一切行っていません」等、宮川選手の会見での発言について否定や釈明をしつつも、「私たちの言動で宮川選手の心を深く傷つけてしまった」と謝罪もしている。
その一方、夕方には音声データを公開。これは今年7月、「合宿から帰りたい」と申し出た宮川選手と塚原強化本部長によるやりとりの一部で、「所属契約をめぐって宮川選手が弁護士を立てて争っているような状況だったので、念のため、録音した」、「私たちが保有している宮川選手との録音内容をお聴き頂ければ、私達が決して高圧的な態度ではないということは お分かり頂けると思っております」と、録音と公開の理由について説明している。
同日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演したスポーツライターの小林信也氏は、音声データの内容について「宮川選手としては、自分が大事に思っているコーチに指導してもらえなくなった原因を作ったのは目の前にいる塚原さんにあると考えていて、口には出していないが不信感を持っているのだろう。一方で、塚原さんとしては口調は穏やかだし、普通の指導だと思っているかもしれないが、"指導者はこういうことを選手に言ってはいけませんよ"という発言だと思う。そこの認識のズレを感じる」と話す。
「塚原さん側は録音データを公開したことに問題はないと思っているのかもしれないが、選手の心に手を突っ込んでいるわけで、大いに問題があるし、これこそパワハラ。大きく変わろうと思ってらっしゃる人もいるが、スポーツの名将と言われる人ほど、平気でこういうことをしてしまう。日本の指導者たちには、"俺が強くさせてやってる、俺なら強くできる"というような、上から強いる発想がどうしても抜けない。今スポーツ界で上にいるのは、コンプライアンスやガバナンスを意識せず、勝てば地位が上がるという競争社会で生きてきた人たち。まさにここを変えないといけない。もっと言えば、塚原さん夫妻は絶大な信頼を築ける地位に30年以上いた。言う通りにすればすごい結果が出るだけではなく、人間としても成長できた、と選手たちが思えたのなら、そういう声が聴こえてくるはずだ。自分たちで"間違ってないです"と言わなくても、教え子たちがこのスタジオに集まって証言していたと思う」。
スポーツ庁のスポーツ審議会委員も務める境田正樹弁護士は「私は5年前、文科省の指示で除名処分も含む厳しい暴力排除のガイドラインを作り、スポーツ団体を指導して回った。その立場からすると、速見コーチへの今回の処分は甘い。ナショナルトレーニングセンター以外であれば指導だってできる。塚原さんからすると、甘い処分にして温情をかけ、だから宮川選手も言うこと聞きなさい、受け入れなさい、という親心だとも解釈できる。日本体操協会は国内で唯一無二の統括団体でで、体操でオリンピックに出ようとすれば、必ずここに登録して選ばれなければならない。塚原さんはそんな団体の幹部で、予算配分権や代表選考にも影響力があるだけでなく、いわば私企業である朝日生命体操クラブの女子監督でもある。我田引水は許されないし、ちゃんとしたガバナンスがされていなければならない。塚原さんサイドは否定しているが、"朝日生命に行きなさい"などと言えたのだとすれば、全ての有力選手が引き抜けたということでもある。外形的には疑いを持たれても仕方ない」と指摘する。
その上で、「この音声データだけをもって"パワハラは無かった"とは言いづらい。ただ、そもそも協会の中で強化本部長、コーチ、選手というのは家族のようなもので、一緒にメダルを取ろうという仲間。その中での会話を録音し、公開したことに私はショックを受けた。宮川選手としては信頼すべき人に無断で行われた行為だろうし、プライバシーの問題にもなってくると思う」との見方を示した。
元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏は「この音声データを出したことも、塚原夫妻の一存で決まったのではないか。夫妻は協会の副会長と女子強化本部長であって、広報担当や渉外担当ではない。権限が分離できていないというガバナンスの問題で、そこを検証すべきだ。また、宮川選手側も何を論点にしているのかわからないし、お互いの事実認識が異なっていて紛争になっているのであれば、裁判や調停、スポーツ仲裁機構といった解決の手続きに則って処理されるべきだ。マスコミに情報が出て、そこから推測が始まって双方が叩かれても、何も意味がないし、倫理的観点から人を叩いてストレス発散する構造に陥ってしまう」と指摘した。
騒動の発端となった速見佑斗元コーチは今日、仮処分申立手続きの取り下げ、謝罪文を提出。9月5日には記者会見を開く予定になっている。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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