今年6月に「2019年は平日しかライブをしません」と宣言したアーティストがいる。かき入れ時の週末を避け、なぜ平日のみの道を選んだのか。そこには、アーティストの大胆不敵な“働き方改革”があった。
9月8日、ライブ好きが集まる日比谷野外音楽堂はたくさんの子ども連れの家族でにぎわっていた。超満員のお客さんの前に表れたのは、夫婦デュオの「ハンバート ハンバート」。ノスタルジックな曲でお客さんを虜にし、さすが夫婦ハモリも見事だ。
2人はなぜ「来年は平日しかライブをしない」という決断を下したのか。妻でボーカルの佐野遊穂さんは次のように話す。
「私たちは夫婦で活動していて、子どもも3人いる。子どもの成長にしたがって、保育所の行事とか学校の行事とかが週末にあって。一緒に活動しているので、どっちかが行くということもできないので」
ハンバート ハンバートは、20年前の1998年に結成。当初は6人で活動していたが、様々な事情でいつしか2人に。そして2人は結婚、3人の子宝にも恵まれた。家族ができたことで、2人が作る曲にも変化が出てきたという。夫でボーカル・ギターの佐藤良成さんはこう話す。
「子どもが生まれる前は自分の目線でしか物事や世の中を見てなくて、それに対して喜怒哀楽だったり色々考えることがあったり感じることがあった。そういうものだけしかすくい取れなかったが、（子どもが生まれると）親という新しい目線が出てくる。子どもという大事な存在ができて、それに対する自分の思いがあるのと、いろいろ子育てをしていると『こういう時こうだった』『こういう風に親から言われたな』とか、子どもの時のことを思い出すきっかけが得られる。それが曲作りのヒント・きっかけになったりする」
ノスタルジックなメロディーに合わせた言葉遊びのようなリズミカルな歌詞に、子どもたちが喜ぶ仕掛けが満載のライブは、実際に子育てをしているハンバート ハンバートならではの演出だ。さらに、曲の合間にある2人のかけ合いも人気の秘密となっている。
老若男女から愛されるアーティスト・ハンバート ハンバート。しかし、アーティストと子育ての両立は決して簡単なものではなかった。
「最初は本当に新しい環境に馴染めなくて…。自分の好きなように、自分中心でやってきたのにそうはいかなくなってきて、またそれがうまく切り替えられなくてイライラした」（良成さん）
ハンバート ハンバートは、夫の良成さんが曲作りを担当。ライブなどの細やかな演出も手がけている。音楽のことだけを考えて生活してきた良成さんは、生活の変化に対応できずにいた。
そんな良成さんについて、「すごく苛立ったりとか、そういう気持ちもあったと思うけど」と遊穂さん。良成さんに「この人は割と能天気で明るいので」と指摘されると、「私は本当にそういうのがなくて、順調順調と思って（笑）。2人ともがこう（視野が狭く）なっていたらヤバいですよね」と笑う。
子どもが生まれてもなお音楽にのめり込む夫と、それを包み込むように支え続ける妻・遊穂さん。このような生活がしばらく続いたというが、歌い続けることで夫・良成さんにある変化が生まれる。
「最初の（子どもが生まれた）時は全く家事の手伝いをしていなかった。でも2人目の時ぐらいから手伝わないとご飯がいつまでたっても出てこなくて。本気で一緒にやらないと何も進まないから、家の中では基本朝からずっとエプロンしている。（そんな姿は）想像してなかった」（良成さん）
夫婦として親として、大きく成長した二人。そしてもちろん、アーティストとしても大きな進化を遂げている。この日のライブはバックバンドなどは一切入れず、楽器は全て2人だけで演奏し作り上げた。登場時、ステージにはマイクがたった1本。
「マイクも1本だけにしちゃおうと。大きなステージで2人でやるのはカッコいいと思う。自分たちで人力で再現できるものだけで、機材も最小限にしちゃうとかっこいいだろうと思ってやったね」（遊穂さん）
「20周年ということでふさわしいかなと思った」（良成さん）
来年は平日だけの活動。しかしそれは、ハンバート ハンバートがアーティストとしても家族としても成長するための大切な時間だ。
「私たちが週末お休みするように、お客さんも平日のお仕事が終わった後の時間は自分の時間として使ってくれるように、『ライブがあるから帰ります』って残業しないで来てくれればいいなと思う。でも、（平日だけのライブを）やっている人はいないし不安なところもあるので、1年やってみてのお試しですね」（遊穂さん）
ハンバート ハンバートのファンで、今回取材を行った徳永有美キャスターは「お二人は20年、ご夫婦としてもいろいろあったと思うが、その時を経て『こうあらなければいけない』というところから解き放たれている感じがする」と2人の印象をコメント。また、そうした背景が音楽にも影響を与えているとし、「生き方や働き方、パートナー、夫婦の形とかが一周して、とてもいい形で音楽にもつながっていると思う。良成さんは若い時ものすごくとんがっていたようだけど、結婚されて子どもも生まれて、結局のところいまはゆったりしている。今とがっていてもあることで劇的に変わる、作品が変わるということがあるかもしれない。生き様が音楽に現れるアーティストは、それが強み・深みにもなるんだと思う」と語った。
（AbemaTV／『けやきヒルズ』より）
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