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 若い人たちを中心に、情報を得る手段がSNSやインターネット検索に集中していく中、余分な情報や引用ばかりで、本当に欲しい情報手に入らなくなってきている、そんな意見が反響を呼んだ。ネットを駆使して取材活動を行ってきたジャーナリストの堀潤氏は、そんな現状についてどう考えるのか。話を聞いた。

■ネットを遮断された平壌で感じたこと

 先月、北朝鮮の平壌に行ったのですが、滞在中はインターネットが使えないので検索力はまさに"ゼロ"になりました。世界で何が起きているのか知ることができない。もしかしたら自分たちのことが報じられているかもしれない。明日の天気予報すらも調べられない。「ここでは○○事件というのがあってね…」とガイドの方の説明を受けながら、その場で関連情報を調べることもできない。

 もう周りの人と話をするしかないと、普段、スマホを2台持って中毒のようになっている僕が、ずっと喋ってましたから。一旦ネットから遮断されたことで、自分で行ってみなきゃわからない、話をしてみないとわからない、という、ある種眠らせていた部分が甦った気がしました。

 それから、ホテルの鍵が一つしかなかったので、きちんと約束をしておかないと、相部屋の学生と待ち合わせもできなかった(笑)。学生は学生たちで集まって、僕は大人同士で飲んでいたのですが、スマホが使えたら"ちょっと遅れます"で良いわけじゃないですか。でもそれができないから、"○時までに帰ってこなかったらこうしようね"と、きっちりコミュニケーションしたわけです。

 SNSが広まったのも、たかだかここ10年くらい。まだまだ移行期ということだと思います。これをもって"はい、ネットは終わりだ、検索はダメだ"とするのではなく、みんなでそういう情報環境を作り上げてきたからこそ、課題、問題点にも気づき始めたわけですから、次のステップへの段階だと捉え、目の前の人の言葉や、自分の感覚を改めて大切にするようになったらいいなということです。

 たとえば、大切な人を食事に連れて行くときに、グルメサイトで星が多いかったから、っていう理由だけで行くでしょうか。ネットには載っていなかったし、評価なんてわからないけど、自分が一回行ってみたら雰囲気やお店の人の雰囲気が良かった、と感じたところに行くわけでしょう?。どうでもいい場合は、はい、グルメサイトで良かった、値段も味もそこそこ良さそうだから"でしょうけど。堀江貴文さんは数年前にそこに目をつけて、俺や、俺の仲間が旨いと思った店が良い、という発想で「テリヤキ」というグルメサイトを立ち上げたわけですから。

 玉石混交の中から"玉"を選び取るのは大変なことだし、"玉"を作るには手間暇とお金もかかるということに皆が気づき始めているのかもしれない。課金するネットメディアが少しずつ成り立つようになったりしてきているのも、その兆しかもしれません。

 それが一足先に来たのが音楽業界だったんだろうと思います。YouTubeで聴けるし、おすすめもSportifyがしてくれるし、という時代、みんなで楽しむライブ、フェスといったリアルイベントの価値が相対的に高まりした。スポーツもそうですね。プロ野球はテレビ中継が減りましたが、各球団が経営改善や球場を工夫することで、試合観戦の価値が高まっていきました。

 そんな風に、初心に戻るいい機会が来たと捉えるべきだと思います。そこに行かないと求めるものは見つけられないとなった時に、インターネットの情報でも、本当にちゃんとやっている人の価値が高まっていくし、それだけじゃカバーしきれない部分については、リアルに行ってみる、方向に向かっていけばいい。

■「書を捨てよ、町へ出よう」ですよ

 同じことはニュースの分野にも言えるでしょう。

 ネットが台頭して、誰でも気軽に情報を発信したり、得られたりするようになるんだから、ジャーナリストや古いメディアは要らなくなると言われていました。でも、コモディティ化されたものは淘汰のフェーズに入っていきます。トラディショナルなメディアに対し、新興のネットメディアがとても魅力的に見えた時期もありましたが、メディアが増えすぎて、どこかからのコピーやフェイクに溢れ、どれが本当かわからないものも目立つようになった。過剰な言論も多くて、なんか嫌だなあ、と読者が思いはじめたとき、ちゃんと一次情報を持っているジャーナリストやメディアに関しては価値が高まっていくんだろうと思います。

 僕が睡眠時間を削ってでもなるべく現地で取材しているのは好奇心や使命感もあるけれど、伝聞だけではなく、"自分で釣ってきた魚なんです"とやらないと、あっという間に淘汰されてしまうと思うからです。オリジナルなものを、信頼・信用のある人がやっている所が勝ち残っていくんだと思うと、怖くなりますよ。冷凍食品ばかりだったら。冷凍食品も、ものすごい業界がしのぎを削っているので、ずいぶん美味しくなりましたけどね(笑)。

 "テレビが無くなるんじゃないか"という議論もありますが、それは「テレビ局」「コンテンツ」「電波」「受像機」の、どの話なのか。確かにテレビ局の経営や業界は今まで通りにはいかなくなるかもしれません。ですが、テレビっぽいコンテンツの表現方法や、電波は決してなくならないでしょう。問題は、それを誰が、どこで、どうやってやるかの話です。それで言えば、テレビの情報番組も同じですよ。新聞や雑誌の記事をめくって"こう書いてあります"だけではなく、"本当でしょうか、行ってきました"という先がなければなりません。

 ガイドブックの答え合わせをするだけじゃ、旅行も面白くないじゃないですか。「書を捨てよ、町へ出よう」ですよ。昔も同じことが言われていたんですよね。異国の地から"無事に帰りたい"という切実な思いをして、改めてそんなことを感じました。(4日、談)剰

■プロフィール

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1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中。

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